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ストレスフリーの店舗戦略

東京駅地下にあるラーメンの人気店に行くと、いつも1時間待ちが当たり前。私も一度だけ並んだことがあるが、もうあの行列には懲りた。それにしても東京の若者は行列が苦にならないのだろうか。パンケーキやポップコーン、ハンバーガーにドーナッツ、目新しいものを好んで並びたがる。

「〇時間待ちが当たり前」「〇年先まで予約でいっぱい」といった、行列や混雑を演出することで新しい行列好き、混雑好きを取り込もうとするのもひとつのマーケティング戦略といえる。

だが、それをやり過ぎると遠ざかっていくお客がいることを忘れてはならない。

ある年、ボトルを入れてあるラウンジのチーママから LINE メッセージが届いた。「ママの誕生日が明後日に迫りました。その日は黒毛和牛ステーキが食べ放題なのと、店内の全ボトルが半額でキープできる特別な日です。武沢さんも是非お立ち寄りくださいね」とあった。

誕生日の夜、行ってみた。すると広い店にもかかわらず満席で、入り口の待合席で10分ほど待たされた。ようやくカウンター席がひとつ空いた。着席してすぐにステーキを注文したら45分待ちだという。空腹だったので、「とりあえず焼きそばか焼きうどん」と頼んだところ、いずれも45分待ちだという。男性店員が申し訳なさそうに「となりのコンビニでおにぎりでも買ってきましょうか」と言ってくれたが、せっかくの晩ごはんをおにぎりで済ます気にはなれない。ママもホステスもきりきり舞いの大忙しで席をあたためる間もなさそうだ。ママに挨拶し、スコッチを一本キープしてすぐに引き上げた。

そのときママはお客全員から祝福されて幸せそうだったが、お店にとってうれしい状態は、お客にとってもうれしい状態というわけではない。お客にとって好都合なラウンジとは、ママやホステスを独占できるほどヒマなときか、オーダーしたものがすぐに出てくる程度の穏やかな混み具合である。

飲食だけでなく、小売店でもお客の望みは変わらない。威勢のいい BGM が店内に鳴りひびき、お客で通路が混みあって、レジにも長い行列ができている。お店にとっては、そんな状態のほうがうれしいし、儲かるはず。ところが、子供服の西松屋チェーン(兵庫県姫路市)では、そういう状態の店舗は「問題店」扱いとなる。西松屋の理想は「ガラガラ店舗」。人のいない武骨なレイアウトで、BGM は流れずシーンとしている。レジには店員がぽつんと一人立っているだけ。西松屋の平均的な客数は、一日170人くらい。10時間の営業時間なので、1時間に17人。10分に3人、3分に1人という計算だ。それが西松屋の理想だという。混みあいだすと、すぐに新店をつくって分散化を狙う。そんな経営方針で経営が成り立つのか心配になるが、過去3年、営業利益率が5%近い状態を続けているわけだから立派なものだと思う。

店内は静かなのでベビーカーで赤ちゃんがスヤスヤ眠ったまま買い物を終えることができる。これならお客も社員もストレスフリーだ。こんな店舗戦略もあるということを西松屋が教えてくれている。

めざせ!ガラガラ

西松屋 → http://www.24028.jp/