Best of がんばれ!社長  武沢 信行

ベストオブがんばれ社長!社長・経営者を応援する「がんばれ!社長」ベストメッセージ(メルマガ「がんばれ社長!今日のポイント」バックナンバーより選抜公開)

苦しみの向こうにあるもの

      2016/04/21

野球に夢中になる子どもがいる。

・ホームランが打てるようになりたい
・相手バッターを三振に取りたい
・完ぺきな守備で相手をアウトにしたい
・盗塁をして相手をかき回したい

そうした楽しさや、やり甲斐があれば、上手になるための練習も平気だ。楽しささえあれば、バッティング、守備、投球、ベースランニング、筋トレなど、どんなハードな練習にも励むことができる。

高校生のとき県大会で優勝し、甲子園まで行った H さんは今、会社の社長。ひとり息子の裕二くんが幼稚園にあがったとき「サッカーボールを買ってほしい」と言われ、ひどくショックを受けた。

(なぜサッカーなんだ、野球だろ)

H さんは あらゆる方法をつかって裕二くんを野球好きにしようと思った。膝の上に裕二くんをかかえて一緒にテレビで野球観戦したり、布団の上でオモチャのボールでバッティング練習したりした。

小学校にあがる頃、「公園でキャッチボールしたい」と言ってくれたとき、H さんはうれし涙がにじんだほどだ。

だけど裕二くんは野球選手になりたいわけではない。大好きなお父さんと遊びたかっただけだ。お父さんは会社の社長だから忙しいはずなのに、帰宅が早くなった。裕二くんに野球を教えるためだ。そして裕二くんを無理やり引っぱってリトルリーグのチームにも入れた。

父譲りのセンスをもつ裕二くんは日に日に上達していった。

「甲子園で通用するぞ」「プロ野球も夢じゃないぞ」と H さんは口ぐせのように言う。そのたびに裕二くんは「ウッス!」と返事をした。試合の日はかならず応援に駆けつけ大声で声援をおくってくれる H さんだが、じつは裕二くんはそれほど野球をするのが好きではない。お父さんを喜ばせたいだけなのだ。心の奥底では、野球もお父さんも嫌いになりそうだった。野球している時間が長くなればなるほど毎日が憂うつに思えるようになっていった。

中学にあがるころリトルリーグも定年になる。これ以上は野球ばかりの生活ができないと思い、恐かったが、裕二くんは勇気をふりしぼってお父さんに正直な気持ちを告げることにした。

「お父さん、今年でリトルリーグをやめるので、それと一緒に野球も辞めたいです」

恐れていた最悪のことが起きた。大声でお父さんが怒鳴りはじめたのだ。

「バカもの!何を言いだすんだ裕二、しっかりしろ。ここであきらめてどうする?なんのために6年間、一生懸命に野球をやってきたんだ。次の目標は甲子園出場、その次にはプロ野球選手というでっかい夢があるじゃないか。そのことを忘れたのか。そんな軟弱な精神では、どんな道に進んだって成功しないぞ、いいのかそれで」

裕二くんは言葉がでなかった。一方的に叱られつづけ、うなだれて泣くしかなかった。30分ぐらいして、ひとつ聞いてみたいことができた。

「お父さんはどうして野球をやめたの?」

裕二くんにそういわれて H さんは絶句した。そういえばいつしか野球をやめていた。H さんは高校球児のとき、ずっと控え選手だった。甲子園でもベンチ入りはしたが、試合には出られなかった。大学に進学しても野球部に入ったが、ずっと二軍で試合に出たことはない。大学を卒業すると同時にサラリーマンになり、その後数年して家業(金型製作)を継いだのだった。社会人になっていつかし野球をやめていたのだ。

裕二くんは言った。
「お父さんのおかげで僕は野球が好きになれたけど、野球選手になろうとは思えなかった。ただ、お父さんと一緒に野球するのは好きだし、ドームでプロの試合を観るのもすごく楽しい。それはやめたくない」

1時間ほど話し合っただろうか。大声で怒鳴ってしまったことを詫び、裕二くんの申し入れを受け入れることにした H さん。布団に入っても寝つけなかった。裕二くんに託した甲子園、プロ野球選手の夢がついえたからではない。大切なひとり息子に対して自分勝手な夢を押しつけ、苦しめてきたことが可愛そうで眠れなかった。

楽しい。それに夢がある。まずそれが一番。

だからこそ二番目として、苦しい練習にも耐えられ、辛いことがあっても辛抱できるようになる。順序が逆ではうまくいかない。苦しいことや辛いことの向こう側に楽しい世界が待っている、といってもその楽しいはずの世界に価値が感じられなければただ苦しいだけなのだ。H さんは布団のなかで悶々とそんなことを考えた。

翌朝、H さんの会社で朝礼があった。

「私たちは仕事を愛し、お客様を愛し、会社を愛する、そんな自分自身を心から愛します」

いつものように全員で経営理念を唱和した。H さんはふと思った。本当に社員は今の仕事やこの会社を愛してくれているのだろうか、と。全社員に本当の気持ちを聞いてみようと H さんは思った。

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