Best of がんばれ!社長  武沢 信行

ベストオブがんばれ社長!社長・経営者を応援する「がんばれ!社長」ベストメッセージ(メルマガ「がんばれ社長!今日のポイント」バックナンバーより選抜公開)

ぶらぶら社員

      2016/04/21

会食の席で「永谷園のお茶漬け海苔にはお茶をかけるべきか、お湯をかけるべきか」が論争になったことがある。お茶派が2名、お湯派が2名、どちらでもいい派が2名と拮抗し、結論が出なかった。そこで一番若いA 社長が翌日、永谷園に問合せるということでその場がおさまった。ちなみに私は「どちらでもいい派」だったのだが・・・。

翌日 A 社長からメールがきた。そこには、「お湯をかけるのが正解」と書かれていた。お茶づけ海苔の中にすでに抹茶成分が入っており、お湯をかけるだけでお茶づけになるように作られているというのだ。

永年そんなことも知らずに食べてきたのかと驚いた次第。

永谷園といえば、お茶漬け海苔や味噌汁など和風即席食品の首位メーカー。業績も株価も堅調な老舗企業である。1979年に「味ひとすじ」というキャッチコピーを制定。そのまま企業理念にもなった。「味ひとすじ 永谷園」と表記することも多く、"味ひとすじ"といえば永谷園を思い出す。

その1979年(昭和54年)には永谷園がもうひとつ歴史に残る意志決定をしている。「ぶらぶら社員」制度の導入だ。どうしてそんな制度が誕生したのかを知る上で、まず同社の沿革をみてみよう。

・1952年(昭和27年)創業。「お茶漬け海苔」発売
・1964年(昭和39年)「松茸のお吸い物」発売
・1967年(昭和42年)「赤だしみそ汁」発売
・1970年(昭和45年)「さけ茶漬け」発売
・1972年(昭和47年)「梅干し茶漬け」発売
・1974年(昭和49年)「あさげ」発売・・・柳家小さんの CM が話題に。
・1975年(昭和50年)「ゆうげ」発売
・1976年(昭和51年)「ひるげ」発売、「たらこ茶漬け」発売。
この年、東証二部上場を達成した。
・1977年(昭和52年)「納豆汁」発売
「ホテルニューオータニホットケーキミックス」発売
「すし太郎」発売

こうして同社は創業以来四半世紀、順調に業容を拡大してきた。高倉健、北島三郎、和田アキ子など大物タレントを CM に起用するなどマーケティングに長けた会社でもある。開発とマーケティングの陣頭指揮をとってきたのは1923年生まれの永谷嘉男社長である。二部上場を果たした年が53歳。今後、一部上場を目指していくには開発力の強化が急務だった。開発の部署はあったが、その開発ペースに不満を感じてもいた。

そこで1979年、永谷嘉男社長が56歳のとき思いきった決断をした。それが「ぶらぶら社員制度」の導入だった。当時、企画部に在籍していたひとりの社員・能登原隆史氏を役員室に呼んだ。彼は「あさげ」の開発プロジェクトリーダーを担当するなど、社長も一目置く開発センスをもっていた。

そんな能登原氏を前にして社長はこんな辞令を言いわたした。

・2年間ぶらぶらし、期間内で新商品を開発し、結果を出してほしい
・その間は出社義務もなく、時間を自由に使ってよい
・経費も制限なしで必要なだけ自由に使ってよい
・計画書も報告書も一切提出不要である

「以上が君への辞令だ」と言われて能登原氏の驚愕ぶりはいかほどだったろう。出社せずに自由にぶらぶらせよと言われても何をしてよいか見当もつかないはずだ。

まず能登原氏は、自由な立場で社内の会議や試食会に出ることにした。だが会議室では新しいアイデアが湧いてこない。そこで能登原氏は、日本中を旅してみようと、詳細な行動計画書をつくって社長に提出した。

すると社長は、「なんだこんなもの」と計画書をその場で突きかえしてしまった。スケジュール通りに動いてもなんら意味がない。自由にぶらぶらするからこそ新しい発想が芽生えるのだ、という。「自由ってむずかしいなあ」、能登原氏はしみじみ思ったそうだ。

ヨーロッパ、ソ連、アメリカを歴訪しグルメ旅をするも、お腹をこわしたり繊細な味覚の能登原氏の口にあわなかったりで開発は難航した。あっという間に二年が過ぎようとしていた。

そして約束の1981年、ある国の中華食堂で何げなく口にした中華スープと春雨が能登原氏の味覚に実にマッチした。「これだ!」と大声を出し、店員を驚かせた。それが「麻婆春雨」の開発につながっていく。社内は大いに活気づいた。この商品は「♪永谷園の麻婆春雨」の CMに乗って大ヒット商品になったのでご存知の方も多いだろう。

その後、能登原氏は「ぶらぶら社員」当時のできごとを本にされている。現在では、セブン&アイ・ホールディングスなどいくつかの会社がこの「ぶらぶら社員制度」を取り入れている。ワコールやキングレコード、サムスン電子などでもこの制度を参考にアレンジして導入しているようだ。永谷園自身は一旦中止した後、2001年にこの制度を復活させたが、ふたたび半年で取りやめている。

「ぶらぶら社員制度」、ワンマン経営者の鶴の一声がないと成立しづらい制度なのかもしれない。それに、ぶらぶらを命じられた社員と社長との強固な信頼関係があってこそ活きる制度でもある。

「ぶらぶら社員」「ぶらぶら役員」「ぶらぶら社長」、一考の余地はある。

永谷園 ぶらぶら社員制度 (マンガ)
http://www.nagatanien.co.jp/brand/maboharusame/burabura1.html

セブン&アイ・ホールディング [対談] イノベーションの視点
https://www.7andi.com/company/conversation/111/2.html

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