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ある専門店の社風改革 その1

Rewrite:2014年3月20日(木)

経済学で「悪貨が良貨を駆逐する」という言葉がある。不純物が混じった金貨が流通し、純度の高い金貨は流通しなくなるのは当然のなりゆきだ。
同じことは、人材に対しても言える。良い人材と悪い人材が一つの組織に混じると、良い人材が辞めていくことの方が圧倒的に多い。どこでもつとまるからだ。
しかし、例外もある。成長する会社は「良貨が悪貨を駆逐する」社風を作り上げているのだ。

社風革命に成功したある専門店チェーンの実例をご紹介しよう。この会社は、先代社長の急逝によって、大企業に勤務していた長男が後を継いだところからサクセスストーリーが始まった。

家督を継いだ段階では、細々と1店舗だけを経営するまったくの家業であり、他人従業員はほとんどいなかった。この社長は、お店を切り盛りしながらも熱心に経営の勉強をした。チェーンストア理論を教える「ペガサスクラブ」にも入会し、大学時代の知人も会社に招き入れてある賭けに出た。郊外大型店をオープンさせ、それをチェーン化しようとの野望である。

この昭和48年当時は、まだダイエーなどのスーパーが積極的に全国展開しているときであり、地方の一専門店がチェーンストアを目指すこと自体が無謀にみえる時でもあった。

しかし、信長の桶狭間のようなこの賭けに勝ち、同社の「勝ちパターン」作りの骨格が出来上がった。地元信用金庫の熱い応援協力も得て、いよいよ地域内をチェーン店で埋めつくすための出店計画に着手。同時に人材の採用と教育に本腰を入れ始めた。

ところが中途社員募集でかき集めた人材の大半が使い物にならない。社長の理想とする組織とは月とスッポンである。まじめな社員が、店長に対して棚卸し残業を申し出ても店長の返事は、「あした営業時間中に棚卸しすればいいんだよ、君ぃ。それより今夜はマージャンにつきあえ!」という始末。1対9の比率でまじめな連中は憂き目にあっていた。

「何かおかしい、社長のビジョンに惚れて入社したのにどうしてこんな先輩しかいないの」という声も聞かれた。

しかし、この会社の年商4億円は、その後10年弱で200億円になる。業界ベスト5入りも果たした。
その秘訣は何だったのか?

時流をよむ目の正しさ、戦略の的確さなどもあるが、ここでは社風改革に注目したい。まずこの会社が社内の人事教育面で打った手を列挙する。

1.大量の新卒定期採用を始めた。
2.教育担当職を設け、人材育成に専念させた。しかも、この初代・教育担当職には店長の中から腕利きをあて、店舗に対する影響力をもたせた。
3.教育担当職に「社内報」を毎月発行させた。この社内報制作にあたっては後述する「特別な編集理念」をもたせた。
4.年度教育予算を従業員一人当たり30万円と破格な計上をし、予算の消化を求めた。
5.教育機会不均等の方針を出し、選ばれた者だけが重点的に教育投資を受ける制度(資格制度)を作った。
6.論文大会を定期的に開催し、業務の改善改革に向けた自由レポート提出を求め、優秀者には渡米の機会を与えた。

これらの結果、猛烈に働き、勉強するのが当然という社風をわずか3年ほどで作り上げることになるわけだが、これでは少し表面的すぎるので、明日、さらに掘り下げて、社風改革の中身を検証していきたい。
かの「マージャン店長」なども居心地がわるくなって数年以内に退社していったのは言うまでもない。

昭和50年以前の入社の社員で生き残った幹部はたった一人。良貨が悪貨を駆逐することとなったのである。

<明日につづく>