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ブロガー佐和田の近況

Rewrite:2014年3月27日(木)

佐和田太一(仮名、45歳)の名刺の肩書きは「ブロガー」である。毎日数本の経済ニュースをブログ記事としてアップする。それによってアフィリエイトの広告収入が得られ、多い時には月間 100万円を超える。独自の視点で解説する佐和田はネットでも人気で、ページビューが圧倒的に多い。時には新聞社や出版社などからスポンサー広告も入り、そんな時には 200万円近い広告収入になることもあった。

佐和田の収入源は、広告収入だけにとどまらない。本を年間数冊のペースで書いており、定価 1,500円(印税率 8%)の本が確実に 5,000部ほど売れていった。つまり、年間何百万かの印税が振り込まれてきたのである。
さらに講演やセミナー講師も意欲的に引き受けていた。佐和田のなかでは、講演は一本 10万円( 2時間以内)と決めていたが、相手が大企業や銀行などの場合はその 2~ 3倍の値になることもあった。

このようにして佐和田が経営する「佐和田オフィス株式会社」はピーク時の 2008年の年間売上が 4,000万円を超えた。その年、節税目的でハワイのオアフ島にマンションの一室を借りた。普段は知人の社長が経営する会社の社宅として貸して、家賃を取っていた。年に何度かは佐和田もその一室を書斎として無料利用できる契約だった。要するに佐和田は絶好調だったわけある。

ところが Twitter や Facebook など SNS の広がりと歩調をあわせるように佐和田のブログはページビューが落ちていった。同時に業績も低下し、ついには 2012年の売上は 1,500万円とピークの三分の一ほどになり、三期連続の赤字となった。もちろんハワイのマンションは2011年に手放している。

そんな佐和田が私に「東京で会えませんか?」とメールを寄こした。元気をなくしているであろうから、励ますつもりで会うことにした。私が牡蠣が好きだということを覚えていた佐和田は八重洲地下の「オイスターバー」を待ち合わせ場所に指定した。先に行って白ワインを飲みながら待つと、約束の時刻ぴったりに佐和田があらわれた。妙に元気そうにみえる。

「やあ、武沢さん。お久しぶりです」と握手を求めてきた。「元気そうだね」と私が言うと、「過去最高、人生最高に元気です!」と言った。そして新しい名刺をくれた。相変わらず「ブロガー」という肩書きである。

私:名刺変わってないね。
佐:ええ、名刺は変わってません。でも仕事は激変しましたよ(笑)
私:じゃあまず、変わってないところから聞かせて。
佐:ブログと本を書くということはあいかわらずです。
私:じゃあ変わったことは。
佐:社長を雇いました。僕をマネジメントしてくれる社長です。
私:え、どういうこと?
佐:タレントのマネージャーのようなもので仕事を取ってきてくれたり、秘書的に時間管理してくれたり時には付き人のように雑用を買って出てくれたり。でも彼は社内で社長ですから経営成果にコミットメントしてくれています。
私:佐和田オフィス株式会社の社長を雇ったわけ?
佐:そうです。僕は「取締役ブロガー」として社長の言いなりになって働くわけです。(笑)
私:社長の給料は出せるの?
佐:収入配分のルールを決めました。新社長は税理士を目指して勉強中の 30歳の若者ですが、僕より経営に詳しい。彼が収入(粗利益)の配分案を提案してくれたのです。
私:どんな配分なの?
佐:粗利益の 60%が人件費、30%がそれ以外の経費、10%が営業利益です。人件費は社長が 30%、僕が 30%、合わせて 60%です。
私:おもしろいね。そのやり方のメリットとデメリットはなに?
佐:まずデメリットはほとんどないですね。私より意欲的な若者が私を引っぱってくれるし、僕では請求できないような講演料の仕事も決めてくる。それに時間があれば広告主開拓の営業もやってくれているので僕は思いきりブログと本の原稿だけに専念できます。どうしてこんなやり方にもっと早く気づかなかったのだろうと思うぐらいです。
私:それを思いついたきっかけは?
佐:僕自身、赤字を出して、ほとほと自分の経営力の乏しさを実感した。でも、自分のコンテンツには自信があった。要するに商売が下手くそだったので、商売上手の人と組めば何とかなると思ったわけです。
私:そこへ税理士志望の若者があらわれたということ?
佐:そうです。もともと彼とはよくご飯を食べる仲で、一緒にやれたらいいね、という話はしていました。
私:実際に、これからやれそうなの?
佐:最初は大変でした。僕が 30%、社長が 30%、経費も 30%という枠に納めるのに一年近くかかりましたが、売上が伸びてきて最近ようやくそのルールに収まるようになりました。
私:その比率は今後も変えないの?
佐:一年に一度は見直そうと話し合っています。今、こうして武沢さんと飲んでいるこの時間に彼は佐和田オフィスの五カ年経営計画を作ってくれていますよ。
私:あなたは社長じゃなくなって、辛いとかさみしいとかないの?
佐:むしろ、今ようやく社長らしくなった自分がいるのに気づきます。今まで孤軍奮闘してきた時間をこれから取り返しますよ。(笑)

なるほど、おもしろい事を始めたものだと感心した。成り行きに注目したい。