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続・幹部が理念を語れない

●上海で和僑会アジア大会が明日から二日間開催される。私も今から一年ぶりの上海に向けて出発する。昨年9月に万博見物に訪れて以来だし、懐かしい面々にもお会いできそうで楽しみだ。そういえば、ちょうど上海蟹のシーズンでもあるので尚良い。上海の様子は来週にでもお伝えできると思う。

●さて、一昨日のつづき。

社長一人しか経営理念を語れない会社でも、それが筋金入りのものであれば業界や地域を変えるような会社を作ることができる。
もし社長以外の役員や幹部も、社長とまったく同じように理念を語ることができれば日本を代表する会社になるだろうし、社員も理念を語る会社になれば世界を変えるはずだ。

●前号でそんなことをお書きしたところ、何通かの感想メールを頂戴した。そのなかに、「理念は語るものなんですね?」というのがあった。実に意味深なメールである。

「理念は語るものではなく、実行するものだ」というニュアンスなのか、それとも「理念は額に入れて飾っておいて、時々社員が声をあわせて唱和すればよい」とお考えなのか、そのあたりがよく分からない。

どちらにせよ、理念は実行されなければ意味がないし、そのためには、語られなければならないし、社員の話題にのぼらなければならない。

●R 君(28歳)は父が経営する居酒屋チェーンに入社した。やがて、父しか理念を語る人がいなことに気づいた。前職の回転寿司チェーンでは社長以外に何人もの幹部が理念を語っていた。そうした環境に慣れている R 君にとってこの会社はどうもギスギスしているように感じられるようだ。

●そんな気持ちが父親である社長の耳に届いたのか、あるいは偶然の一致なのか、ある日、本社から印刷物が全社員に支給された。

それは赤い表紙と黒い表紙の B6サイズの印刷物だった。赤い表紙の冊子には『感謝』、黒い表紙には『遺憾』というタイトルが付けられ、それぞれに「明日に活かす」という文字がそえられていた。

●居酒屋の客席にはアンケート葉書が置いてある。お客が帰る際、スタッフはアンケートに協力いただくようお願いする。協力者には次回使える無料ドリンク券がもらえるので、かなり回収率が高い。
そこに寄せられた様々な声・声・声・声・声・声・声・声・声・声。

●うれしい声が赤い本(社内では通称「赤本」)に集められ、辛い声や厳しいお叱りなどが「黒本」に集約された。読みやすいように、すべての声をワープロ打ちしてある。今回はお客様名がすべて伏せてあるし、お客様が特定しづらいように全文ワープロ打ちしたが、次回からはそのあたりもどうするか検討中らしい。

●「赤本」はお客様の声がそのまま載っている。「黒本」はすべての苦情が四つのカテゴリーに分けられ、ページの見開きにきちんと整理されていて読みやすい。

・事例(実際におきた不始末)
・原因(なにが理由でその不始末がおきたのか)
・お客様の気持ち(そのことでお客様がどんな気持ちになるのか)
・対策(同じようなことが二度と起こらないようにするには)

●この居酒屋ではこの「赤本」「黒本」を社員全員の必読書として感想文を書いてもらうそうだ。
とても良いことだと思うし、各店の店長がこの二冊のテキストをもって朝礼やミーティングを行うように指導してゆけば、おのずと現場でも理念の話題が活発に交わされるようになるだろう。
新たな社風作りに一役買うという意味でも「赤本」「黒本」の今後に期待している。

●社員の受信トレイや日報ファイルに入っている膨大なお客の声。

それを一カ所に集め、赤本・黒本のように冊子にしよう。簡単な作業ではないが、最良の社内テキストになることは間違いない。