★テーマ別★

社員の不正と税務署の関係

ある会社の幹部社員が不正をはたらき、1,000万円ほどの商品を持ち逃げした。あわてた社長は専務に指示し、その幹部社員を探させる一方で、税理士に電話した。

「先生、1,000万円分の商品を持ち逃げされました。もし本人が見つからない場合、こういうのって一括で経費処理できますか?一括の場合、今期は赤字になるかもしれません。2分割か3分割で経費処理することは可能ですか?。ちょうど来週、税務調査がありますので、税務署員にもこの被害を伝え、会社の窮地をわかってもらおうと思いますがよろしいですか?」

あなたは経営のプロとしてこのケース、どう判断されるだろう?

結論

「経費処理?とんでもない」と税理士に言われるのがオチだ。しかも気の毒ながら、社長の無知さを笑われることだってありうる。ましてや、このことを自ら税務署員に伝えるなど管理体制の甘さを告白しているようなもので百害あって一利なしである。

まず、1,000万円の商品を盗まれたからといって、会社が所有権までをも失ったわけではない。従って会社にまだその商品がある、という前提は変わらない。仮に不正を働いた社員が警察に逮捕され、商品を転売していたことが発覚したとしても、損害賠償を請求する権利は会社にあり、それが決着つくまでは在庫は「ある」と見なされる。「もう諦めますわ」と社長が言ったとしても、税務署が簡単に諦めてくれるわけではないのだ。

仮に社員が過去何年にもわたって売上げの一部を計上せずに横領・着服していたとしよう。その場合は、その着服金額が会社本来の収入と見なされ、正しい申告をしてこなかったとして会社に重加算税がかかってくる可能性がある。

「そんなバカな、もらってないお金に対して税金がかかるのはおかしい」と裁判所で訴えても「甘い管理で売上げをもらってこなかったあなたの方が悪い」ということになる。もちろん、不正社員は別の法律で罪に問われるわけだが、税金支払いは待ったなしなのである。

もし役員が不正を働いた場合はどうか。それは、社員の場合よりも高い確率で重加算税がかかるだろう。社長が不正に気づいていなかったとしても、税務署は「役員の行為=会社の行為」と見なすのだ。

不正は蟻の一穴から起こる。たいていの場合、最初は小銭程度の小さな不正だろう。本人も罪悪感があまりないし、すぐに返済するつもりで行う。だが、誰にも気づかれないことを良いことに徐々に金額が大きくなり、やがて引き返せない橋を渡る。

社長は社員や役員から犯罪者を出してはいけない。そのためには、特定個人を信用しすぎて「出来心」を起こさせるような緩い仕組みをつくってはいけない。ダブルチェック体制を敷くことや、定期的な人事ローテーションを行うなどして、不正を未然に防ぐのだ。不正は断固許さないし、万一発覚したら厳しく対処することなどを、就業規則などで徹底周知しよう。また、ISO取得や経営品質への取り組みなどで企業統治力を高める取り組みも有効だろう。

<今日の結論>

「×」 会社の損は経費処理
「〇」 会社の損でも税務署は見逃さない
(役員の場合は会社ぐるみと見なされ重加算税も)

「社長がケチだから」「社員を信用しないから」ではない。
仕組みを厳しくするのは社員から犯罪者を作らないためなのである。