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経営計画書の中味は各社各様

●北海道でゴルフの練習場を三店舗経営している津末ゴルフ株式会社(仮名)の津末社長(63才、仮名)は元銀行マン。

三年前に定年退職し、退職金と貯金をあわせた4,500万円を投じて、叔父が経営していた津末ゴルフの経営権を買い取った。叔父からのたっての頼みを引き受けたものである。

●「大丈夫なのあなた?会社経営の経験がないのにやれるの?万一のことがあったら私たちの生活はどうなるの?」と奥方は大いに不安がり、最後まで反対した。
「いや、ぜったい大丈夫だ。必ず成功させる」と口説き落とし、社長に就任したのが2008年のことだった。

●あれから3度の決算があり、いま4期目の半ばまできた。

状況は非常に厳しい。毎月赤字が出ていて止まらない。赤字額は初年度で1700万円、二年度1500万円、三年度1200万円とすでに資本金は使い果たした。津末自身は役員報酬を一円も受けとらず、年金によって生活しているがこの状態も長続きしそうにない。老朽化した設備を、だましだまし使い続けることにも限界がある。

●今年、かつての後輩がいる銀行から借金をした。

「先輩、大丈夫なんですか。ちゃんと事業計画書を作って奥様も我々も安心させて下さいよ」と心配してくれる。

叔父の紹介で知りあった税理士の田原は、津末より10才以上年上で、地元の名士でもある。そんな田原と毎月会うたびに津末は追い込まれた。

●田原税理士は津末にむかって「あなた、社長失格ですよ。経営が甘い、脇も甘い、人間も甘い。もっともっと経費を減らしなさい。まず予算管理を強化しなさい。社員にも危機感をもってもらうために、もっと厳しく指導し、目標必達を誓わせなさい」と言う。
アドバイスの内容は毎月一貫して津末社長と社員にプレッシャーを与えるものだった。

●素直でまじめな津末は田原に言われたとおり、社員に圧力をかけた。
自分の人間性を変えてまで社員にプレッシャーをかけた。
一円単位の経費縮小をもとめ、一人でも多くのお客を集め、一円でも多く売上げを伸ばすことを社員に求めた。社内が日に日にぎくしゃくしていった。
津末の表情から笑みが消え、家族は生活のことよりも津末の健康を心配するようになった。

●「経営者として何が足りないのだろうか?」

津末は倫理法人会や同友会、商工会議所などあらゆる会に通って経営の勉強をし、良いと思ったことはすべて実行した。詳細な経営計画書もつくり発表会も開催した。

●誰にみせても「大変よくできている」と絶讃してくれる経営計画書。
それなのに赤字体質から脱却できないのはなぜか。それに津末自身がどれほど経営の勉強をして計画書が立派になっていっても、「これで大丈夫だ」という確信がまったくもてない。

●困りぬいた津末は、思い切って東京で行われた「がんばれ社長!」のセミナーを受講することにした。
交通費や宿泊費だってバカにならないが、カプセルホテルに泊まる勇気と体力もない。結局、アパホテルに泊まったが、ものすごい贅沢をしている気分になった。
ホテルの部屋で缶ビールを飲みながら「いかんいかん、社長の自分がこれを贅沢と感じるようでは気持ちまで萎えている」と思った。

●「がんばれ社長!」のセミナーが終わって武沢に時間を作ってもらった。
ほかの受講者が帰ったセミナー会場で二人きりになり、経営計画書を見せた。だまって10分ほど見ていた武沢の口から、今まで誰からも聞いたことがない言葉がでてきた。

「津末さん、三年連続赤字で社員数が12名の会社にしては立派すぎる経営計画書です」

「えっ、立派すぎる?立派じゃだめですか?」

「はい、立派ではいけません。簡素が一番です」と武沢。

「簡素って、武沢先生。これでもページ数は25しかなく、それほど多いとは思えないのですが、どこが立派なのですか」

「ページ数の問題ではなく、肝心なことが書いてなくて、肝心でないことがたくさんある。体裁にこだわって総花的な計画書になっている。今は黒字にすることと資金不安をなくすことが一番大切なのではありませんか?」

「そうです」

「だったらそのためだけの計画にしましょう。それ以外のことは今は関係ない」

「う~ん。じゃあ経営理念も社員教育も会議体系もクレーム処理もホームページ運用も必要ないとおっしゃるのですか?」

「今はすべて必要ない。黒字化と現金増加に直結しないものは、この際、すべてバッサリ切り捨てましょう。外科手術用の計画書は、漢方用の計画書と別ものだと思ってください」

「そうなんですか。はじめてそういう考え方を知りました」

「目的達成のためにはフレキシブルにいきましょう」

「なるほど、具体的にはどうすれば?」

「それはですね、・・・」

<明日につづく>