●昭博(あきひろ)が夕食を終えてウィスキーを片手に本を読んでいたら、大学生の次郎(二男)がリビングに入ってきた。
「親父、そろそろ寝るよ。あれ、今日は小説を読んでるんだ?」と言う。
「そうだよ。お父さんが何を読んでるか知りたい?」と答えると即座に「いや」と言った。
●そういえば、彼が中学生のときに昭博から文庫本をプレゼントしたことがある。その本が次郎の好みに合わず、以来、父がすすめる本には興味を示さない。
その時プレゼントしたのは『模倣犯』(宮部みゆき)で、冒頭のシーンからして衝撃的だった。昭博も中学生にはふさわしくない本をプレゼントしたと反省し、リベンジとばかり『海辺のカフカ』(村上春樹)をプレゼントしたが「よく分からん」と放り投げられた。
本のプレゼントはむずかしい。
●そんなことがトラウマになっているので、「お父さんが何を読んでるか知りたいだろう?」と言われても「いや」という息子の気持ちが分からぬでもない。
そこで昭博の方から題名を告げることにした。
「カラマーゾフの兄弟、だよ」
●昭博はてっきり、「へぇ、すごいね」とか「あ、その本、大学の先生に推薦された」などの返答を期待したのだが、まったく予期せぬ答えが返ってきた。
「なにそれ?」
●え、カラマーゾフの兄弟を知らないの?
多少動揺しながらも昭博は平静をよそおい、「ドストエフスキーだよ」と言ったら、「誰それ?」といわれてしまった。
昭博は戦慄が走った。
今の大学生(もちろん大学にもよるが)って、ドストエフスキーもカラマーゾフの兄弟も知らないんだ。いや、たぶん本好きではない次郎が知らないだけだろう。
そう思って家の中にいる長男の携帯に電話して、「おい、太郎。カラマーゾフの兄弟って知ってるよね」ときくと「いいや、ぼくはそんな兄弟をしらん」と即答し、電話を切ってしまった。
念のために彼らの母にも聞いてみたが、的外れな返事しか返ってこなかった。
●昭博はFacebookでその事実をありのまま伝えた。すると即座に19人からコメントが来た。
Kさん:せめて名前ぐらい知っておいてほしいですよね。なんとも鍛え甲斐のあるご子息たちですね。
昭博:たしかに。学校の先生もいったい何を教えてるんだと思う。あと、親もね。
ちなみに東大ではこうなのに。
→ http://dain.cocolog-nifty.com/myblog/2006/05/100_5cc0.html
Iさん:カラマーゾフの前にライト兄弟からどうぞ……(笑)。で、案外、曽我兄弟を知ってたりするから、人って面白い。
Sさん:ドストエフスキーって作曲家かと思っていました。まだまだ不勉強ですね。勉強になりました!
Yさん:ビーフ・ストロガノフの親戚かと思ってました(笑)
Aさん:それが(大学生の)現実ですね。大人でも、本を読んでいない人は全く読んでいませんからね。
昭博:こちらのブログを読んでも「カラ兄」を読みたくならない人っているのかなぁ?
(以下、ブログ「わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる」の記事から転載)
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【第1位】カラマーゾフの兄弟(ドストエフスキー )
流石というかヤッパリというか、「カラ兄」がイチバン東大新入生にオススメされている小説。ハイ、もちろん一冊だけ選べというならば、わたしも「最高の小説」と強く推す。
特に(上巻ラストの)「大審問官」はスゴい。生を生きなおすようなすごい経験を請けあおう。
この blog で「すごい本」を探している方へ→スゴい本は沢山あるけれど、頂点はこれ。徹夜小説、劇薬小説、夢中小説、最高小説、キング・オブ・スゴ本、あらゆる称号のトップはダントツこれ。未読の方は四の五の言わずに読め(命令形)。最強の読書体験を約束する。
ただし、非常に強い酒のような小説なので読んでクラクラしないよう気をつけて。
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Yさん:さすが東大。親友でルポライターの戸田智弘氏(名古屋在住)から、読書の秘訣は「メモしながら読まないと分からない本を読むと良い。自分の知力の外
側にある本です。」とアドバイス受けました。
その東大教官がすすめる100冊読破をWISH LISTに加えようかと。
Tさん:学生(専門学校、大卒の学生も数名)に『陰影礼讃』を読む課題を毎年出すのですが、ここ数年、谷崎潤一郎を知っている学生が一人もいません。聞いた
こともないって言うのです(涙)。
昭博:谷崎を知らないとは?がく然とします。
それと、
…読書の秘訣は「メモしながら読まないと分からない本を読むと良い。自分の知力の外側にある本です。」…
という点、肝に銘じます。
Sさん:でも、親子でこういう会話が出来る事が素晴らしいと思います。
●あなたも家族に聞いてみてほしい。
・カラマーゾフの兄弟を知ってる?
・ドストエフスキーを知ってる?
昭博が受けた衝撃をあなたも体験しないで済むことを祈りたい。