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ちょっと贅沢なミルクセーキ

●2月某日、宅急便が届いた。
送り主をみると「南山大学」とある。梱包には「ポッカ名古屋本社」。

なんだろう?

「あ、そうか。ついにアレが出来たんだ」と思いだした。この製品のことは、山本雅一税理士事務所(大垣市)の山本先生から聞いていた。
氏は南山大学のビジネススクールでMBAを取得していたのだが、最近、母校でおもしろいものを作ったので送っておくと言われていたのだ。

●ポッカの製品開発リーダー(執行役員)は「私たちが考える最高のものが出来たと思っています」と胸を張れば、南山大学准教授は「自信のある商品ができあがりました」と目を輝かす。

それを名古屋のCBCテレビ(TBS系)が連日テレビで放映する。これはまさしく前代未聞のコラボレーション企画。

●始まったのは昨年1月。仕掛け人は南山大学の山下忠康先生。
同大学のビジネススクールの正式科目のなかで実施されたもの。社会人学生数人(4~5人)が1つのチームを作り、学生たちでプロジェクトの課題を考え、実行するという科目である。

●その中の一つとして本企画が持ち上がった。山下先生の人脈を活かしてポッカ側にコラボ企画を持ちかけ、ポッカもそれに応じた。更に、CBCにも協力要請して三者連携が完成したのだ。

●「ポッカさんは日本で最初に本格缶コーヒーやホット自販機を作った会社。CBCさんは日本最初の民放さんで今年60周年。ともに名古屋の会社であり、地域に根ざしたCSRを推進して、さらにプレゼンスを高めていただきたい」と山下先生。

●”学生のユニークなアイデアを製品づくりに活かす”とはいっても、ポッカはすでにその道のプロ。
学生のどんなアイデアを活かせるのか未知数ゆえ、勇気ある決断が必要だったろう。ポッカの製品開発プロセスをそのまま、あるいはそれ以上シビアに授業にもちこんだ。

●大学側でもポッカのリスクは充分承知している。
昨年3/6(土)にキックオフ・ミーティングを行い、7/29(水)の商品決定までの約5ヶ月間、自主的な集まりを含め、このプロジェクトに多大な時間を学生も先生も割いた。

●このプロジェクトをポッカ側で支えたのは、執行役員の加藤幸久氏。
加藤氏はポッカで約30年間、商品開発・研究に携わってこられたプロ中のプロで、ポッカの創業者である谷田利景氏の薫陶を受けたお一人でもある。

●加藤氏が社会人学生に商品開発のノウハウを1から教え、基礎を作り上げてから実施したもので、ひょいと思いつきの商品を企画したものではない。
キックオフ・ミーティングで加藤氏は、「皆さん、これからはポッカのプロダクト・マネジャーになったつもりで頑張って下さい。私も皆さんを学生ではなく、ポッカの社員、自分の部下として扱います」という訓示があった。その言葉通り、加藤氏は熱意ある指導で学生をリードした。

●最初は「スープにしようよ」「いや飲料がいいな」「どんなのがいいんだろう」という段階から始まる。それを最終的にはひとつのアイデアに絞り込むのは簡単ではない。
だから最初のスタートは「アイディア100」。
参加者全員(学生13名、教員4名、ポッカの研究所員3名)が一人100個の商品アイデアを考えるという苦行から始まった。

●「それは大変な作業でした」と苦笑いでふり返る山下先生。
100個以上のアイデアを全員が提出したので、当初は約2000個もある選択肢をもって議論をスタートさせる。重複しているのもあれば、とんでもない異端な商品も混じっていたりした。

●それをグループ・ディスカッションなどで絞り込み、何度かのテーブル試飲(サンプル製品)を行い、10個程度に厳選した。
それを、6/12のポッカ社長へのプレゼンで5つにまで絞り込んだ。そして、7/29(水)にポッカのマーケティング本部長が最終決定を行った。

●そこで決定された新製品は「ミルクセーキ」だった。

名古屋の喫茶店文化とミルクセーキという昔懐かしの風味が高く評価されてのものだった。
製品名は「ちょっと贅沢なミルクセーキ」(ポッカ、一本120円)。

●さっそく私も飲んでみた。

昔、喫茶店で飲んでいた懐かしのミルクセーキの味がする。
素材も地元にこだわり、愛知県産の卵黄に砂糖を加え、岐阜の飛騨牛乳を使った厳選素材。

「”ちょっと贅沢”というキャッチコピーですが、実は “贅沢” です」と山下先生。
気になるカロリーの方だが、100グラムあたり62キロカロリー、一本190グラムなので118キロカロリーと意外に低い。甘いミルクセーキなので、私はコーヒーにあわせて楽しんでいる。

●発売は2月14日(月)つまり今日である。

当初は東海地区限定販売ながら、ポッカの販売チャネルに乗るので、東海の主要コンビニではどこでも手に入る。
ちなみに今朝10時ころ2軒のコンビニに立ち寄ったがまだ売られていなかった。

●売上次第で、全国販売も見込まれているので学生も売上づくりに懸命だという。

・新商品のサンプリングを自分の勤務する会社で行う
・自分のブログやツイッターなどの手段で口コミを広める
・様々なプロモーション・イベントに参加し、広報する

など、地道な手段で愚直に頑張っている。

●なお、テレビでもこの商品について、毎週木曜日(21:54~22:00) CBCテレビで「ココロの喫茶店」というミニ番組で放送している。(今年3/17まで)。

内容は「ちょっと贅沢なミルクセーキ」の開発ストーリーを放送するというもの。プロジェクトXのようなドラマ仕立てではないが、興味深いミニ番組になっていて宣伝効果は高そうだ。

●「ちょっと贅沢なミルクセーキ」で検索したらこれだけヒットした。

・ポッカ
http://www.pokka.co.jp/company/news/2011/110112_01.html

・日経
http://release.nikkei.co.jp/print.cfm?relID=270545

・読売新聞
http://chubu.yomiuri.co.jp/news_k/ckei110204_3.htm

・中日新聞
http://edu.chunichi.co.jp/news/education_00001435.shtml

●一本の市販飲料に「南山大学ビジネススクール」の文字を入れ込むことに成功した山下先生。
うがった見方をすれば、広告費ゼロで、ビジネススクールを宣伝するという究極のプロジェクトだったのではないか。しかも、実際の企業の製品開発プロセスを無償で学ぶことに成功した。
さらに、できあがった製品を私のオフィスに送り、無料で記事を書かせる営業力。さすがMBAの先生はしたたかである。

●ポッカの読みも深い。
百数十万本という初期生産らしいが、南山大学には1万人の在学生がいる。OBも入れれば膨大な数にのぼる。

彼らがまず飲み、そしてネットメディアで口コミすればあっという間に全国区製品になる可能性がある。しかもCBCが連日宣伝してくれる。
その宣伝料を自社で賄っていたら膨大な広告費になるだろう。

●先週、山下先生と食事をご一緒したときには控えめな紳士という印象だったが、今こうして氏の深謀遠慮を想像すると、まるで諸葛孔明のような智者に思えてきた。

無から有を生み出す仕事とはこういうことである。

「ちょっと贅沢なミルクセーキ」、あなたも味わってほしい。