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仕事を作る・・・安藤忠雄氏講演会より

「9月13日(日)ならいいよ」と OK が出たのは8月26日だった。わずか19日前のことである。その日からエックスラボの藤勝行社長の猛チャージが始まった。まず大阪のグランフロントのホール(定員数300)を押さえ、即刻、集客にかかった。自社メディアだけでなく、「がんばれ!社長」などの他社メディアにも広告を打った。

さすが「世界のANDO」、安藤忠雄氏である。「生でお話しを聞きたい」と開演三日前の9月10日には申込みが予定数の300を突破した。もちろん大阪からの参加が一番多いが、名古屋、東京、九州など全国から集まった。藤社長は急きょ、会場側と交渉し増席することにした。だがその後も参加申込みは増えつづけ、講演当日には420名以上が集まった。「こんな高い講演料(5,400円)なのに、皆さん、よく集まったね」と安藤氏も場内を見わたしておどろいた。

講演会は3時からだが、午後2時にはすでに数十名の方が最前列から順に席を埋めていた。私は前から4列目の中央あたりに席を確保した。冒頭に主催者の藤社長があいさつを兼ねて1時間半のインターネットマーケティングに関する講演をされた。一度会社を倒産させた経験をおもちの藤(ふじ)社長は、その痛い教訓から何かをつかんで立ち上がった。その教訓とは、セールスするのでなくマーケティングせよという智慧。「セールス」は売り手目線の販売行為、「マーケティング」とは顧客目線の顧客創造行為、いずれも似てはいるがまったく非なるもの、と藤社長。

かつては若い正社員をたくさん雇用し、彼らにセールスさせていた。その会社が破綻した。自信があったのに失敗し悔しくて眠れぬ日々がつづいた。今度は真逆のやり方でやろうと、社員雇用を極限まで抑え、クライアントにマーケティングを教えるマーケティング支援会社をつくった。それがいま大きな成果をあげている。同社が実際に使っているマーケティングツールも幾つか紹介しながらの講演は聞きどころ満載で私もたくさんメモした。

休憩後に登壇されたのが安藤忠雄氏だった。あのしわがれた、やや高めのトーンで話しを始められた。まず、最近ある大学で講演されたときの話から切りだした。

大学での講演なのでてっきり若い学生に話すのだと思って行ってみたら、どうも雰囲気がおかしい。年配者ばかりが集まっている。事情を聞いてみたら、その学校の65歳以上の OB ・ OG が集まる講演ということで、若くない相手への話は神経をつかうことになった。その点、今日は若い人が多いから、普段思っていることをそのままお話しできる」そう言って聴衆を笑わせた。

東京オリンピックの国立競技場デザイン選定問題にも触れた。氏が選定委員長だったことから筋違いな批判を受けることになり、心外の様子であったがその時間は数分程度だったか。

『仕事をつくる』と題された講演の主題は、人生100年時代をいかに生きるか、というものだった。安藤氏自身が何年かまえに膵臓や脾臓の全摘手術を受けられた。医師が「安藤さん、よく生きてますね。人間の身体は実に不思議だ」と笑って首をかしげるという。生死の狭間をくぐりぬけても一向にひるまない。はからずもこの日、安藤氏は74歳の誕生日を迎えていた。が「人生100年時代を独立自尊の精神で生きよう」と420人の聴衆に送ったエールは、ご自身にも向かっていたはずである。

以下、安藤氏の講演メモ。(文責:武沢)
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ここ大阪の適塾で学んだ福澤諭吉は『学問のすすめ』で独立自尊を説いた。独立自尊を支えるものが「教養」と「野性」である。英語では GeneralKnowledge とWildNess。最近の子どもは昔にくらべて塾や学校で教養や知性を学び、その能力は大いに発達した。だが、それにひきかえて「野性」の部分を著しく失ったのではないか。僕(安藤氏)は一心不乱に働く人が好きで事務所の職員にもそれを求めている。ところが若いインターンの学生などは一心不乱に仕事をしている最中でも終電の時刻を気にしている。「今夜中に京都のホテルに戻らねば」などと言っている。僕らの時代には大阪から京都まではなんぼでもいて帰ったものだ。仕事明けの道中で朝日を見る、というようなことを今の建築家はしらない。それもひとつの失われた「野性」である。
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このように私(武沢)が文章にすると、若者に対する年長者の嘆きに聞こえるかもしれないが、真意は別である。クラスでビリから5番目だった安藤氏が、独学で建築家になり、世界中からオファーが絶えない建築家になるには、「学閥」「コネ」「教養」「学識経験」などとは違うところで個性を表現せねばならない。そのために総動員したものが自分で考えるという行為だった。施主の望みを実現しつつ、自分独自のデザインを生み出すために自分の頭でとことん考え抜いた。そのことを安藤氏は「一心不乱」と表現する。いつの時代でどんな職業でも「一心不乱」がなかったとしたら、永遠に独立自尊など勝ち取れないぞ、と後輩たちに訴えているようだった。

<まだまだ面白い話がある。つづきは明日に>