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次郎吉

●銀座にある「歌舞伎座」が、2010年4月から建替工事のため休館している。新・歌舞伎座は2013年春に完成予定で、待ち遠しい。

その歌舞伎の演目にもなった鼠小僧次郎吉(ねずみこぞう じろきち)。

江戸っ子の話題をさらった盗賊である。
寛政9年(1797年)から天保3年(1832年)にかけて”活躍”した盗賊で、謎が多い人物だが、彼を有名にしたのは義の賊である点。

そんじょそこらの盗人とはわけが違うのだ。

●もっぱら大名屋敷に盗み入り、その数28軒(32回)におよんだ。しかも生涯にわたって盗んだ金は3,000両(1億8千万円)以上といわれ、金に困った貧しい者にそれを分け与えていると世間を騒がせた。

●「鼠小僧次郎吉は正義の味方だ」との噂は江戸中に広まった。

それは誰が流したか知らないが、彼が捕縛される9年も前からその噂が流れていた。
案の定、彼が捕縛されて家宅捜索されたとき、盗まれた金銭はほとんど発見されなかった。噂は本当だったんだ、と更に噂が広まった。

だが、近年の無粋な研究家によって、「盗んだ金のほとんどは博打と女と飲酒に浪費した」という説で落ち着いている。

●その次郎吉が最後に捕まったときの様子が中村天風師の本に出てくる。『盛大な人生』(中村天風述、日本経営合理化協会)のなかにあるこんなくだりだ。

・・・
これはもうだれでも知っている話だ。いちばん最後に(次郎吉が)捕まったのが薬研堀の質屋に入ったときだね。

とるだけのものをとって、いざ帰ろうと思ったときにヒョイと気がついたら、チョコチョコチョコっと、二歳ばかりの子供が歩いてそばへ来て、ニコニコ笑ってるってんだ。夜中ですよ乳離れしたばかりの子供が、夜中、人の物音に目がさめて、おとっつぁんやおっかさんのわきから抜けだして、ヨチヨチ歩いてきたんでしょう。そして、天下の大悪党のねずみ小僧次郎吉を見て、ニコニコ笑ってるもんだから、そこが霊性だねぇ。「おお、ぼうや、ぼうや」と言って手をだすと、だんだんそばに寄ってくるから、「ここまでおいで、ここまでおいで」と後ずさりしているあいだに、蔵の前の落とし穴に落っこっちまいやがった、ドタンバターンと。子供だけは無事に助かった。大きな物音に家の者たちが気がついて見ると、泥棒の用心に掘ってある落とし穴へ・・。それでつかまっちまった。

ねずみ小僧次郎吉がつかまって、おしおきのときにこう言ったって。

「あの子供で私は救われました。あの子供が出なかったら、まだまだ悪いことをして、私はもうとめどもなく悪のほうへいったでしょう」
・・・

●だれにも捕まらなかった次郎吉が、最後には二歳の子供に捕まった。
しかも獄門の刑を受ける直前にその子に感謝する次郎吉。

いかにも歌舞伎的な話だが、歌舞伎の演目になるほどのエピソードを作ってみたいものだ。