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キレるなQさん

●酒が入ると人が変わる税理士がいる。仮にQさんにしておく。

Qさん(50)は仕事中は大人しいし、酒場でも親しい友人と一緒なら楽しい酒になる。私も何度かビールをご一緒したが、人の話をよく聞いてくれるナイスミドルという印象しかない。

●そんなQさんがときどき酒場で乱闘さわぎを起こす。
ご本人に直接聞いた話だが、最初はささいなことが原因で、やがて話がこじれ、Qさんの方から「おい、表へ出ろ!」となる。相手が本当に表へ出ると、ほとんど乱闘になる。格闘技の有段者なのでほとんど負けたことがない。

●そんなQさんと最近お会いしたら神妙な顔をしているし、よく見ると、顔にいくつかアザがあった。
「ほ~、何かやりましたね?」と聞くと、最近も乱闘さわぎを起こしたという。

●10年ぶりにひらかれた同窓会で、近くに座った男性が税理士批判をはじめた。
ある程度お酒も進んでいたがQさんといえども、同窓会で暴れるわけにはいかない。最初は堪えしのんで話題をすりかえていた。
ところが相手の男性が、「おい、Q君。君の所ではどのような考え方で事務所運営をやっているんだ」と聞くので、ふだん職員に話していることを話した。すると相手は大声で、「ふ~ん、誠心誠意と顧客満足か。それでおまんま食べれるなど甘いなあ、甘い甘い甘い、so スイーツ!」と言ったらしい。

●Qさんはキレてしまった。
「おい、どこが甘いんだ言ってみろ」とテーブルを叩いてその場で立ち上がった。相手が全然悪びれないので、「おい貴様、外へ出ろ」となった。結局、乱闘中に交番から巡査が来て仲裁したがQさんは逆上するばかりで、警察の「保護室」で一晩お世話になった。
「もう同窓会のお誘いは来ないと思う」とQさん。

●「なんでそんな大人げないことをするの?」と聞くと、彼自身も自分の気質を持てあましているようで、逆に質問されてしまった。

「もし、武沢さんがあのときの私の立場だったとしたらどうしてましたか?」というのだ。

●私はこう答えた。

自分と違う考えを持っている人はたくさんいる。また、自分の職業(この場合は税理士)に良からぬ印象をもっている人もたくさんいる。個人的に嫌われていることだってあるだろう。
どんな席でも意見を求められたことに関しては誠実に回答するが、それを分かってもらおうとは思わない。だいたい、相手の質問の真意は口調でわかるので、最初から悪意がある相手とは、まともに議論しない。口論になるのは見え見えだし、議論に勝っても負けても不愉快な気持ちになるからね。
もし、なにか議論をふっかけられても、「そうだねぇ、そうかもしれないね」とやり過ごせばいい。もし、相手がそれ以上何か続けたら、ちょっとこの席暑いねぇ、とか言いながら席を移動して、隣の人と別の話題をすればいい。

●「あいつ逃げたと思われませんか?」とQさん。

「逃げる前にまず交わす、そらす。それでダメなら逃げるのが正解だよ。大義がない戦争など勝っても負けても悲惨なだけじゃない。自分に自信があれば、相手に分かってもらおうとする必要はなくなる。むしろ、他人がわかってくれなくても痛くもかゆくもない自分を作ることが大切なんじゃないの」

●そんな話をして家に戻ったら、かみさんが「同窓会 ~ラブアゲイン症候群」を観ていた。
今注目のテレビドラマらしい。

ひょっとしたら、Qさんの隣には学生時代のマドンナが座っていたのかもしれない。もしそうなら、またアドバイスは少し違ったものになっていたかもしれない。だが、基本はかわらないはずだ。

キレるなQさん。キレてはなにもできない。