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庄内にて

●5月20日(木)13時。アテンダントによる機内放送が流れた。それは今まで一度も聞いたことがない内容だった。

「当機は着陸態勢に入っておりましたが何かの原因でふたたび上昇を始めています。くわしい原因が分かり次第お知らせいたします。シートベルトをお締めになってそのままお待ち下さい」

●庄内空港の上空はひどい霧で、着陸寸前になっても外の景色がまったく見えなかった。案の定、機長は着陸を回避したのだが、たぶん、あと数メートルもないほど地上ギリギリでの再上昇だった。
そのまま上空で待機し、天候が回復しない場合は新潟へ向かうか羽田に引き返すと機長がアナウンスした。

●それから50分間上空を旋回した。
「着陸は無理かな」の空気が出はじめたころ、”ポーン”という音でシートベルト着用のサインがでた。視界は依然として不良のままだが、管制塔から「今だ!」の指示が出たのだろう。肉眼でみるかぎりは先ほどとまったく変わらない濃霧だったが、着陸を強行。
無事、飛行機の車輪が大地についたときには思わず拍手しそうになった。我々の後の便は濃霧のため欠航になっている。

●庄内空港には山形ハーネスの大瀧社長がお出迎えくださった。

明日(5月21日)、同社の設立25周年謝恩会と第26期経営計画発表会があり、私は記念講演があるので前日鶴岡入りすることにしたのだ。

●まず、まっ先に向かったのは湯殿山(ゆどのさん)。
月山(がっさん)、羽黒山(はぐろさん)と並ぶ出羽三山(でわさんざん)のひとつで、修験道を中心とした山岳信仰の場として、現在も多くの修験者や参拝者が集まる。

●途中、月山を抜けるあたりで一気に雪が多くなる。
「うわ~、このあたり、雪がまだ残ってるんですね」と聞くと、「ええ、先月スキー場開きがありましたから」と大瀧さん。
てっきり「スキー場クローズ」のことだと思っていたら、月山スキー場は夏スキー専用で例年4月上旬にオープンし、8月くらいまで営業しているという。スキー場のまわりは新緑の緑という不思議な光景。さらに夏になれば、スキーのあとに海水浴も可能だという。

●さて、湯殿山神社に到着。
ここのご神体はなんと、温泉がわき出る大きな岩。
自然崇拝の原形を今にとどめ、かの松尾芭蕉も「語られぬ湯殿にぬらす袂かな 」と詠んだ。
撮影禁止だけでなく土足も厳禁。ご神体に近づくには裸足になって岩を登っていく。最初は冷たい水を感じるが登るにつれてぬるくなり、ご神体の岩に近づくと熱くなる。
この温泉は特に足に効くそうで、大瀧社長も知人が何人もこの湯で足が治ったのを目の当たりにされたという。

★湯殿山 → http://www.genbu.net/data/dewa/yudono_title.htm

●その後、注蓮寺(ちゅうれんじ)に向かう。ここには鉄門海上人の即身仏が安置されている。
即身仏はミイラとは異なり、本人の意思と修行によって肉身のままで大日如来と一致する仏になったもの。千日から5千日の長きにわたって五穀・十穀を絶ち、山草と木の実だけを食べる木草行を行い、肉体の脂肪・水分を極限まで落とし、最後には漆を飲んで内臓の腐敗を防止し、入定するというすさまじきもの。その目的は衆生を救うため。
族長を保存する目的のミイラとは本質的に異なるものである。

★注蓮寺 → http://www2.plala.or.jp/sansuirijuku/

★即身仏 → http://www5f.biglobe.ne.jp/~syake-assi/newpage147.html

また、ここ注蓮寺は、『月山』(昭和49年芥川賞作)を書くために森敦(もり あつし)が一年ほど逗留した寺としても有名で境内には文学碑が建っていた。

●庄内入り初日は湯の浜温泉「愉海亭みやじま」さんで一泊した。
女将の渡會さんは中小企業家同友会やその他の経営者団体で世話人役もこなされるほど勉強熱心な経営者。
明日の山形ハーネスさんの経営計画発表会にもゲスト参加されるそうだ。

●VIPルームに通され、お茶を一服いただく。屋上にある源泉掛け流しの湯に浸かり、英気を養ってからいよいよ夕食。
山形ハーネス創業時から大瀧社長を補佐してきた斉藤専務がここで合流し、三人での夕食会。
身体の芯まで温泉で暖まってなかなか汗が引かない。タオルで顔をふきながら面白いように生ビールが体内に吸い込まれていく。運ばれてきた刺身の盛り合わせがドーンと私の前に置かれたので、仲居さんに「すいません、真ん中へ置いてください」とお願いしたら、それが人数分出てくるという。そのあと、利き酒セットがお盆で運ばれた。
地酒が五種類、大ぶりのおちょこ(湯飲みに近いサイズ)にいっぱい出てきた。こちらも人数分あるというが、利き酒のレベルを超えている。

●なにしろ庄内。
山海の珍味は味もボリュームも最高で、いままで一度も食べたことがないものも幾つかあった。その代表格が「孟宗汁」(もうそうじる)。
この時期がまさしく旬で庄内を代表する郷土料理。とろみがある粕汁でいただく筍は実に美味だった。

★愉海亭 http://www.yukaitei-miyajima.com/

●食後、「じゃあ軽く」ということで地下のカラオケへ繰り出したがほぼ満席。我々は一曲ずつ大声を張りあげて23時ころ就寝。明日の本番に備えた。

<明日につづく>