未分類

勝つために集中する

●昨夏の北京五輪で日本野球チームのキャプテンをつとめた宮本慎也選手(ヤクルト)は、「韓国のライトの選手がウィニングボールをグラブに入れた瞬間におがんで喜ぶ姿をみて、韓国チームのこの試合にかけてきた執念を思いました。自分たちは勝ちたいという気持ちで負けていたから、試合でも負けたのだと思います」と語った。

●私はこのコメントを聞いたとき違和感を覚えた。「なんてクールなんだ、当事者なのだから韓国に負けないように気持ちを奮い立たせて戦えよ」と。

●もちろん彼らもプロだし、日本中の期待を集めて北京へ乗り込んでいった。
勝ちたくないはずがない。ましてや監督は闘将・星野仙一。勝つことへの執念では屈指のリーダーのはずだ。なのに「気持ちで負けていた」という発言に無責任さを感じたものだ。

●「勝って当然。絶対勝てるし、金メダル以外はいらない」という気持ちが慢心を生んだとか、一部選手と首脳陣とが不仲だったとか、責任感が義務感になって不用な緊張を生んだとか、いろいろ言われたが真の敗因はよく分からなかった。

●ところが、同じ北京五輪で金メダルを取った女子ソフトボールチームがヒントをくれた。
勝ちたい気持ちの差とは、単なる願望の強さの差ではなく、勝つための準備の差だったのではないかと。

エースピッチャーの上野投手はこう語っている。
「オリンピックって、最後の最後、気持ちの強い人間が勝つんだって実感しました。強い、弱いは執念の差なんです」(『Number』711号)

●では、その執念とはなにか。
上野投手は、秘密兵器のシュートボールをライバル・アメリカ戦用に隠し続けた。攻撃面でも選手やスタッフ全員でアメリカチームのエース投手を分析し、ついにその癖をみつけだした。ライズボールかドロップボールか、投げる前から日本チームは見抜いていたという。試合は二時間で終わるが、ライバル打倒の戦いは何ヶ月も何年も前からすでに始まっているのだ。そこまでのチーム一丸の準備を星野ジャパンはしたのか?ということのようだ。

●そんなことを思い出しながら昨日の大相撲・千秋楽をみた。

白鵬対朝青龍の本割対決と優勝決定戦の二番は、まさしく相撲史に残る名勝負。
優勝決定戦で朝青龍が白鵬を投げ飛ばした瞬間、おもわず私は拍手していた。朝青龍ファンというわけではないが、こんな力の入った横綱同士の対戦は滅多にみられるものではない。ともにモンゴル出身の横綱で日本の力士が台頭してこないのがすこし残念だが、大鵬・柏戸の柏鵬(はくほう)時代をほうふつとさせる強い者同士のガチンコ勝負はテレビを見ているこちら側まで熱気が伝わってきた。

●優勝した朝青龍自身がインタビューで「自分でもほれぼれする集中力だった」と答えている。横綱に登りつめていくころの集中力を思い出させるものだったともいうが、場所前のNHKのインタビューでは相当弱気な発言もしていた。

・自分も年だ
・若いものの力を感じる
・いつまでやれるか分からない

そんな弱気とも取れる発言が朝青龍を謙虚にしたようだ。今まであまり話を聞かなかった親方のアドバイスを真剣にきいた。
「もう若くないんだから、前とは違う勝ち方をしないと」とパワー一辺倒から技も重視する相撲を心がけたという。

●「勝って当然」という気持ちから、「負けるかもしれない」という気持ちに変わったとき、朝青龍に奇跡の集中力がよみがえった。
集中しないと勝てないという本能が呼び覚まされたのだろう。

白鵬の速攻で無様に投げ飛ばされたとき、このショックな負け方で果たして立ち直れるのか注目されたが、15分間のインターバルで集中力を完全に取りもどした朝青龍は、今度は逆に白鵬を投げ飛ばしてみせた。

●次の目標は?と聞かれて「頭が真っ白で、まだ、ありません」と答えた横綱。当然質問されるであろうことを聞かれても答えられないほど目の前の一戦に集中する15日間を過ごしてきたということか。

●さて、9月もあと3日で終わる。
今年もいよいよ最終四半期に入るが、この三ヶ月になし遂げようと思っていることに集中することが私たちにも求められているのだと思う。