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フリーターの親玉から社長へ

●この週末、社長の計画合宿を行った。名古屋市内の合宿所に集まった8名の社長はいずれも多士済々。
わずか一泊二日、正味24時間ながら同じ釜の飯を食うとふしぎな一体感が生まれ、感動しやすくなる。今回も目頭が熱くなる出来事がいくつかあったが、今日と明日に分けて二つほどエピソードをご紹介したい。例によって社名や個人名は仮名。

●今年30才になったばかりの中古電話機販売の安堂社長は、今年の春、2才年下の彼女からこう言われてしまったという。

「経営理念をもってない社長なんて社長と言えない。そんな会社なんて、そもそも会社ともよぶべきではないと思うわ」

●論客の彼女にそう言われ、経営理念を持っていなかった安堂社長はだまっているしかなかった。会社を作ってからもうすぐ三年になるが、安堂社長自身がいままでに就職をした経験がない。フリーターをやって、そのあと電話アポイントのアルバイトをやり、そのまま起業してしまったからだ。経営のことはもちろん、ビジネスの常識や基本のようなものが分からない。

●「理念がない会社なんて、フリーターの親玉が、稼いだお金を他のフリーターにばらまいてるようなものよ。社長の名刺を持ちたければちゃんと経営理念を作ってからにしなさいよ」

●そう言われて悔しかった安堂社長は、それから一週間かけて経営理念らしきものを作ってみた。それが「業界のパイオニアになる」という”理念”だった。

誇らしげに彼女にそれを見せた安堂社長だが、今度はこう言われてしまった。
「あのね、ひとことでいえば、まったくダメ。経営理念がどういうものか根本から勉強してきたらどう?」

●そう言われて武沢の講座にやってきた安堂社長は、何度も何度も理念を修正した。
武沢が講義で解説していることは理解できるが、実際に自分のことにあてはめて考え、作文するのは骨が折れる作業だった。なにしろボキャブラリーが少ないので良い言葉が浮かんでこない。夕食間近の時間になってようやく「出来ました」と手を挙げた安堂。

その理念は、「業界のパイオニアになって中小企業を救済する」というものだった。

●「悪くはないがまだ理念の体を成していない」と武沢に言われた。
たくさん質問をされ、他社の事例も見せられて、さらに数時間かけて練りあげた経営理念がこれだった。

「私たち○○○(社名)は、中小企業の経費削減に貢献し、お客様に感謝され、社会に必要とされる業界のパイオニア企業をめざします」

●「おぉ、なんて素晴らしいんだ。私はそう思います」と武沢に言われた。
一瞬浮かんだ笑顔のあとに、「あ、ダメだ。ぼくウルウル来そうです」と天井を見上げた安堂。
ようやくこれで彼女から「フリーターの親玉」と言われないで済むかと思うと感無量だった。

●夜10時。入浴後のビールバズ(缶ビールを飲みながらの経営談義)で安堂社長は自社の現状と未来を周囲にこう語った。

「この業界はまだまだ発展途上でして、ダーティなところも残っている。お客をだましてでも新しい電話機を売りつける業者がいて、うちの会社もそういう業者がいるおかげで質のよい中古機が入ってくるわけでして・・・」

●「ちょっと待て」、私はその言葉と彼の一瞬ゆがんだ表情を見逃さずこう申し上げた。

「それはダメでしょ、安堂さん。あなたはお客をだまして利益を得るような悪徳業者と一蓮托生なのですか?お客の犠牲のうえでなりたつ仕事をしておられるのですか?」

●彼の目が大きく泳いだが、気をとりなおしてこう言った。

「いえ、そうではありません。いろんな業者が混じっているこの業界の現状を説明をしようと思って余分なことを言いましたが、うちとそういう会社とは無関係です。取り引きしたこともありません」

●「それなら結構だが、理念を作ったのは彼女を喜ばすためではないはずですよね。理念を作ることが目的なのではなく、これから本当の挑戦が始まります。理念に忠実な仕事をして、本気になって理念を実現できる会社にしようと、いろんなことを変えていかねばならないのですが、本気でやるつもりですか?」と申し上げた。

「もちろんです」と安堂社長。

2009年7月20日が安堂社長の第二の誕生日になることを願って、「がんばれ社長!」にエピソードを書かせていただいた。

がんばれ!安堂