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床屋にて

●「今日はどうしますか?」と床屋で聞かれた。

「う~ん、せっかくなんで思い切って短くして下さい」と言う私。
担当の理容師がバリカンをもってきて、「じゃあ武沢さん、夏も近いし3ミリに刈りあげちゃいますか?」と言うのでOKを出したら予想以上に地肌が丸出しになってしまった。

●「ちょっとやり過ぎだったかなあ」と内心で後悔していたら、となりの席に70才くらいの老紳士が座った。
側頭部に髪が若干残っているが、それ以外はきれいなスキンヘッド。
全体にうぶ毛が目立っていた。

●そんな彼が椅子に座るなり、「この店で一番短いバリカンで頭全部やってくださいな」とリクエストした。
担当者が驚いて、「2ミリカットになりますがよろしいですか?たぶん、ほとんど何も残らない感じになりますが本当に大丈夫ですか?」と何度も念を押し、そして一気に刈りあげた。

●3分後、ほぼ全面スキンヘッドになった頭を愉快そうになで回しながら老紳士は理容師にこう質問した。

「どこまでが顔で、どこからが頭だい?」

その理容師は無愛想な表情を崩さず、その質問を無視してニヤッと笑った。

●老紳士はもう一度、自嘲気味にこう言った。

「ふ~。何年か前までは自分がこんな頭になるとは想像できなかったなぁ。ま、その分、これで毎日の手入れが楽になるけどね~。アッハッハ。ところで、どの部分までシャンプーを使って、どこからが洗顔石けんなの?」

●理容師はぶっきらぼうにこう答えた。
「全体を一個の石けんでOKですよ。シャンプーもリンスも要りません」

「なあんだ、この前ドライヤーを買ったばかりなのに、ハッハッハ」

●私は隣の席で笑いをこらえるのに必死だった。いつか自分もそうなるのだろうが、そのとき、この老紳士のように達観できる人間になっていたい。
まずはそんな頭にならないように、5000円もするポーラの養毛トニックを買って帰ることにした。

●結局私より20分後にやってきたこの老紳士は私より20分前に散髪を終えて帰って行った。散髪代は私と一緒らしい。

それにしてもあの老紳士の心境はお見事。
ただならぬ人物と思い、彼の職業を聞いてみたら、飲食店のオーナーだとのこと。

●私も3ミリにカットし、大変身したつもりで会社へ行ったら、スタッフ全員が気づかない。
「床屋へ行ってきたよ」と私から告白したら、3人の中の1人が「あ、そういえば耳元がすっきりされましたね」と言ってくれただけで、あとのふたりは「え、そうなんですか?」と言っただけでディスプレイから目を離そうとしない。

みんな自分のことで精一杯なんだと思った。

●それでもリーダーは、周囲の人のちょっとした変化に気づく人でないといけない、と自分に言い聞かせながら今日のメルマガを書き始めた。