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クビにする前に

●二人の担当者から「社長、それでもおやりになるというのなら僕らは何も言いません」と言われて財田(たからだ)社長は自分の耳をうたがってしまった。

そしてこの時、「もうダメだ、二人そろってクビにしよう」と思った。
雑貨卸売業を営む株式会社財田商会(たからだ しょうかい、仮名)では、新規事業として日中貿易の部門を立ち上げることになった。
そこで、先月、即戦力人材として採用したのが元貿易会社勤務の二人。
だが、その働きぶりがどうにも納得できないのだ。

●彼らの経歴は申し分なかった。日中貿易の経験は豊富だし、語学も堪能、中国にも人脈は多いようだ。
だが、納得できなかったのは、彼らの立ち位置の悪さ。

当事者意識がなく、まるで社内コンサルタントのように問題や課題を社長に指摘するばかりなのだ。その結果、社長が彼らに使われているような関係になってしまうという。

●「社長、問題発生です」と問題を報告してくる。
貿易経験がない社長は、自分なりに考えて解決の方向性を示すのだが、「え~!社長、そんなことをしたら誰も相手にしてくれませんよ」とか、「社長、そんなの問題外ですよ。違法行為ですから、そんなこと私にはやれません」などと言う。

●社長は彼らに違法行為をさせたいのではなく、知らないのである。
「どこが違法なのか、どのようにすればルールに則って目的が果たされるのか?」と聞くのだが、中国の法律や貿易実務が解説されたホームページを示して「ここに全部載っています」と言う。

「社長もこの程度のことは、社員と一緒になって勉強して下さいよ」、
と言わんばかりである。

●「ちくしょ、こいつらにバカにされるために雇ったのではない。今度なにかあったら二人ともクビにしてやろう」と思った。

そんなある朝、「がんばれ!クラブ」の存在を知った。入会すれば、武沢にいろんな質問ができるという。さっそく入会し相談メールを送ってみた。

●三日後、武沢からこんな返答がきた。

「社員を解雇すべきかどうかという重大な問題は、メールの情報だけを頼りに意見しづらいことです。少なくとも腹立ちまぎれに解雇をお考えになっているのではなさそうですね。
よく熟慮してお決めになるのであれば、どちらでも正解だと思います。
ここで私は一般論だけを助言申し上げることができます。

上司と部下のトラブルや不信感の多くは、互いに期待しているものを互いが理解していない、あるいは誤解していることから生じることが多いものです。
ひょっとして、そのお二人の社員は、社長の部下の一般社員として働いているつもりではありませんか。部門を立ち上げるリーダーとしての自覚が本当にあるようには思えないのですが、社長はそうした期待を彼らに口頭または文書で伝えられましたか?

また、こちらの接し方や関わり方のなかに改善すべき点がないかどうかもよくふり返りましょう。「やって当然だ」とか「これぐらいはやれよ」というような態度をされたら、やる気をなくすこともあります。

こちらにそうした諸問題がないとしたならば、そのお二人はたしかに当事者意識が乏しい社員のようです。いつもそうしたスタンスでしか仕事ができない人がいるもので、そうした人を部門リーダーに据えることは誤りです。
今回はこちらの採用ミスによって、部門立ち上げリーダーにふさわしくない人を採ってしまったのならば、潔く誤りを認めて解雇もやむなしだと思います。ただし不当解雇にならないように、彼らや社労士の先生とよく話し合い、必要な手順を踏んでいってください。
また、配置転換することで彼らの能力や人脈が活かせないかどうかもよくお考え下さい。一般論ではありますが、以上です。」

●松下幸之助さんも学卒者を採用しはじめたころ、平気で専門用語を連発する学士社員に腹がたち、烈火のごとく怒ってこう言った。
「私に分かるように話をしなさい。そのためにウチに来てもらったのだから」と。

きびしく叱られたことによって自分たちの役割をきっちり理解した学士社員。上司を煙にまくような発言は二度としなくなったという。

●部門の責任者として仕事をしてもらうのか、それとも社長の部下、つまり一担当者として仕事をしてもらうのか、その辺があいまいになっているとこうした問題が起こる。

社長が期待している成果と、期待している仕事ぶりをもっともっと明確にしてあげよう。多くの社員はそれで変わる。それでも変わらないときだけ、放出やむなし。