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時間が解決する?

●会社経営のあるべき姿を書くだけでよいのなら、メルマガ「がんばれ社長!」は100号くらいも発行すればそれで事足りたことだろう。

だが、実際にはそういう訳にいかない。延々と9年間も書いてきた。
経営以外の話題に脱線することも多いからかもしれないが、いくら経営の理想論を語ったところで、現実問題としてそれが出来ない経営者が多いのが問題なのである。
知っていることと、それが出来ることとの間には深い溝がある。それを無視して経営を論じても意味がないから9年間も続けてきた。

●なぜできないのか、どうしたら出来るのか、こんな場合はどうするのか、あんな時にはどうなんだ、と踏みこんで考えていく必要がある。
だから「がんばれ社長!」は、100号はおろか1000号でも10000号でも終わらないだろう。
計算してみたらあと30年続けてようやく10000号になる。85歳まではやらなきゃならんと思っているのだが、果たして85歳の人が書いたメルマガをどれだけの人が読んでくれるのか、気にはなる。

●最近お会いしたメルマガ読者も「あるべき姿」通りにやれないで困っている社長の一人だった。

彼女は私にこう打ち明けた。

「武沢さん、3年前にうちの会社に入った営業の男の子がね、今まで一件も受注を取れてないのよ。3年でゼロよ、すごいでしょ」

「スゴイですね。いったい彼は何をしてるのですか」

「最近は内勤のアシスタントのような仕事しか任せてないの。外に出すと危なっかしくて」

「危なっかしい?」

●彼女の説明によれば、営業男性(35)は重い自律神経失調症で時々発作が起きて会社を休む。かつては、車を運転中に発作が起きたこともあり、外回りで車を運転させることはできなくなった。

入社時の履歴書の健康欄は「良好」とあったし、面接のときにもそれを確認した。だが実際には15年も前からこの病気にかかっていたことを彼は内緒にしていたのだ。
責任感が大変強い人なので会社に迷惑をかけているという自覚は充分にあり、それが悲壮感のようにもなっている。
「これからどうするの?」と社長が話しかけると、「今はお世話になりっぱなしですが、体調さえ戻れば僕は化けてみせます。何倍にもしてお返ししてみせます」という。
結局そんなやりとりばかりで、何となくうやむやに3年が過ぎてしまった。

●「どう思いますか?」と聞かれたので私は「それはひどい。病気を内緒にして入社するなんて告知義務違反ですよ。雇用契約を解除するに充分な理由です」と言うと、彼女はこう聞いてきた。
「クビにしろ、ということですか?」
「クビにしろ、ではなくて、クビにできる、ということです」
「だってね、武沢さん。私は彼の奥さんが可哀想で可哀想で。途方に暮れて電話してこられる奥さんの声を思い出すと、とてもクビになんかできない」
「じゃあ、グッと我慢してこれからも彼に給料を払い続けるのですか」
「それもねぇ、他の社員にしわ寄せが行きますものね」
「ほかにどんな選択肢がありますか?」
「とりあえずもう一度本人とゆっくり話し合うことでしょうかねえ」
「いや、そうではないと思いますよ。話し合ってもたぶん結論は出ないでしょう。今までと同じようなやりとりになるだけですよ」
「ではどうせよとおっしゃるの?」
「それを決めるのが社長であるあなたです」
「う~ん・・・、それってやはり私が決める問題ですかね」
「もちろん。彼が自分から決めることがあるかもしれない。自ら去っていくということです。でも、それを待っていたら何年何十年かかるか分からない。それまで放置しておけますか」
「そんなには我慢できない。遅くとも今期中(9月まで)にはなにかの結論を出したいですね」
「だったら、どのような選択肢があるのか、今から書いてみましょう」

●そうして紙に書き出したのが次の項目。

1.即刻または近日中に解雇する。
解雇するにあたっては社労士の先生と充分に協議して、不当解雇の疑いを払拭しておく。

2.期限を定めずに彼の回復を待つ
これもなにかの縁、と割り切って彼を雇用し給料を払い続ける。
ひょっとしたら本当に彼が将来化けてくれるかもしれないし、期待はずれになるかもしれない。

3.彼の回復を待つが、最終期限だけは切っておく
3ヶ月とか6ヶ月とかの時間を与え、彼に進路選択させる。
その間に会社に残って業績貢献する方策を見つけるもよし、会社を去って次のことを準備する時間にするもよし。今のままの健康状態、勤務状況のままでは、
○月○日以降は雇用契約を継続する意思がないことを明確に伝える。
この中には、出来高払いの在宅外注社員として縁を残す方法も含まれる。

●「本人と話しあう」のは大いに結構なことだが、会話のイニシアティブを取るのは社長のほうでなければならない。その社長が、頭をきっちり整理して会話にのぞもう。

個人の人生なら “時間が解決する” 問題も多いが、会社経営においてはそうならない。
むしろ、 “時間をかければかけるほど問題が化膿する” ものである。

問題を放置せず、選択肢を書きだそう。