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進退窮まる

●「どーするアイフル」のコマーシャルが結構好きだった。進退窮まると、人はどうするのか興味深い。

●「進退ここに窮まれり」とはこのことだ。
京都・先斗町(ぽんとちょう)の狭い路地を歩いていたら、道の向こう側から「誠」マークの羽織を着た新撰組の一隊がやってきた。
こちらは脱藩浪士・坂本龍馬ただひとり。
新撰組もこちらに気づいている。抜き打ちに備えて、刀のつかに手をやっている。
こちらの身元が発覚すればすぐにつかまるか、斬り合いになって負けるかしかない。進退窮まった竜馬。逃げるか、中央突破するか。

●竜馬は中央突破した。
ただし、新撰組の殺気を殺いだ。道ばたに猫を見つけ、「ほお、ほお」とまったく無防備な姿勢で猫を拾いあげ、ほおずりした。新撰組の一行は完全に気が殺がれてすれ違っていくしかない。
これが竜馬流・中央突破法。

●こんな「進退ここに極まれり」もある。
自分の元・彼女が新しい彼氏を連れて高座を見にきた。お笑い芸人の彼の名前は三遊亭小金馬。
6才で二代目三遊亭金馬に入門。三遊亭金登喜(きんとき)を名乗る。
話の面白さと子供特有のあいくるしさが人気を博し、天才少年落語家と言われた。このころ、高座に放り込まれるおひねりは、大人の真打ちよりも多かった。

●12才で三遊亭小金馬襲名。 大いにウケていたのはここまで。それ以後は声変わりもあってお客からまったく笑われなくなってしまった。
ウケないお笑い芸人ほどつらい仕事はない。まして客席の目立つ場所から元・彼女が見ている。

●「あ、あ、あ~、どうしよう」と進退窮まった瞬間、小金馬の顔は大きくゆがんだ。下くちびるが耳まで届くくらいにゆがんだ。
眉と目は今にも泣き出しそうな泣き顔をつくった。
その表情のまま、ネタを話す。
そのとき、会場がドッと来た。腹を抱えて笑っている人もいる。ふと元・彼女のほうを見ると、これまた大笑いしている。

●「やった~」と思った。調子にのってどんどん顔の表情を変えていった。これが後に有名になる柳家金語楼の顔の七変化のはじまりだ。
のちになって金語楼は自分の名前と顔を登録商標にした。

●金語楼の場合は竜馬と違って気を殺いだのではない。とっさに芸がでた。

まったくの余談ではあるが、金語楼は発明家としても著名で、彼の発明の恩恵をあなたも受けている。
ひとつは子供が体育の授業のときにかぶる「赤白帽」。表が白で裏が赤の帽子だ。あと、爪楊枝の頭に切り取りを入れ、そこを切り取ると箸置きのようにして使える楊枝。いずれも実用新案として登録し、莫大な副収入を得ていたのでも知られる。
1968年 日本喜劇人協会会長就任。

●進退窮まると、逃げ出すか、突破するか、二つしかない。ただし、突破の仕方は人それぞれあるようだ。