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天衣無縫、天衣LR…

五輪水泳でメダルを独占した英スピード社の「レーザーレーサー」
(以下LR)

LRとは、米航空宇宙局(NASA)の協力で開発し2008年2月12日に発表された水着のこと。撥水性が高く、超音波溶着の無縫製を特色とする。
要するに、水の抵抗を極限まで減らしたものらしい。

従来の水着は選手の着心地と動きやすさを重視してきたが、LRは選手の締め付け力を重視する。
大まかに言って、これまでの水着の10倍の締め付け力があるというのだ。

この革命的な製品が生まれた秘話をテレビで紹介していたが、それによれば、摩擦の少ない生地の開発をNASAに依頼し、100種類に及ぶ生地を吟味していたある日のこと。

スピード社の開発責任者とNASAの研究担当者がランチでパスタを食べていたときNASA研究者が何げなくつぶやいた。

「茹でる前の硬いスパゲティの方が、茹でて柔らかくなったスパゲティより水の抵抗が少ない」

ランチも忘れて水の中で何回も何回もスパゲティを動かしてみた。
やっぱり硬いスパゲティが勝つ。柔らかいより硬い方が抵抗が少ないのだ。だったら人間も硬いスパゲティのようにしよう。

それは革命商品誕生の瞬間だった。

<LRの教訓>

・開発は外部と組む…自社の外に優れた人たちがいる
・客に不自由を強いる…勝つためには客(選手)の言うことを聞いていてはならないことがある
・革命的商品は専門知識だけで理詰めに考えていてはうまくいかない

その後、縫い目の抵抗を下げるため、超音波で生地の縫合をした。
要するに無縫状態に近づけ極限まで水の抵抗を少なくしたのだ。

縫い目がない「無縫(むほう)」という言葉を聞いて私は天衣を思いだした。天人の衣には人為的な縫い目がないことから「天衣無縫」。

詩歌などに技法をこらしたあとがなく、自然でしかも完全で美しいさまを天衣無縫という。人柄が天真爛漫で飾り気のない人のことをさす場合にもつかう。

これからは「天衣無縫」と聞いたら「天衣LR」「天衣スパゲティ」と覚えておこう。