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主人公は誰?

●羽根田真希子社長(仮名、女性、38才)は、自分の時間がまったくない。「これでいいのだろうか?」と。

●大学を卒業して外資系保険会社に入った彼女は26才で結婚。
ご主人は中古車販売店「羽根田オート」(仮名)の社長で、彼女は結婚と同時に経理担当として入社し彼を支えたWEBを駆使した独特の販売手法がヒットし、会社はみるみる大きくなり、”県下の風雲児”と注目される存在にまでなった。

●だが5年後に離婚。二人の子供の親権は彼女のものになった。
31才になっていた彼女は、自分の生活を取り戻してもう一度やり直そうと引っ越し先をさがしていると、ご主人から「一年だけでいい、いや、後任が決まるまでのちょっとの間で良いので仕事を手伝ってほしい」と懇願された。

●人が良い彼女は「引き継ぎが済むまでの間だけよ」と手伝い、以来5年目になる今も羽根田オートで働いている。その間、彼女の役職は専務になった。

「どうも話が違う」と思っていたら、昨年の暮れ、ご主人を事故でなくしてしまった。
銀行を交えた親族会議の結果、彼女が「羽根田オート」の社長として再出発を目ざすことになった。

●「おっかしいなぁ」と思いつつも、それが自分の人生なのかも知れないと、武沢の経営ゼミナールに参加。
新生「羽根田オート」の経営計画作りをやろうということだ。

●そんな彼女が懇親会で私にビールをつぎにきてくれた。

「武沢さん、おかげさまで本業が順調なのはありがたいのですが、とにかく毎日が喧噪のなかで過ぎていきます。子どもが寝たあと、一人でワインを飲むのが楽しみなんですが、そのとき、いつも心のどこかで『あなたは誰かに踊らされている』という気持ちがもたげてくるのです。どう思われますか?」と羽根田社長。

●彼女の人生を評論できる立場ではないが、次のようなことを申し上げた。

禅語に、「随所で主人公たれ」という言葉がある。いついかなる時でも主人公はあなたであるべきだ、という教えである。
むかし、瑞巌和尚という禅僧が、毎日自分自身に向かって「おーい主人公」と呼びかけ、自分で「ハイ」と返事をした。
そして、「お前ははっきりと目を醒ましているか」と問うと、もう一人の自分が「ハイ」と答える。
「これから先も人に騙されなさんなや」「ハイ、ハイ」といって、毎日ひとり芝居をやっていたという。
ここでいう主人公とは、リーダーといういう意味ではなく、主体的な人格のことである。他人のために生きることが良い悪いの判断材料なのではなく、見失いがちな本当の自分というものを覚醒させて、いつも主体的であることが大切なのだと思う。

●羽根田社長は、母親としての義務、PTA役員の義務に子供会の義務、町内会の義務、社長としての義務、親戚の一員としての義務に趣味のワイン愛好会の幹事としての義務、読書人としての義務に健康の義務、オシャレの義務などなど、頭の中は義務でパニック寸前になっていた。
ようやくホッと一息つける時間は一人の時間だけ。

●「主人公たれ」という教えは義務からの解放を指す。一人の時間だけが主人公になれる時間とは少々寂しい。どうしたらシンプルで義務の少ない生活を送ることができるのか。

明日はそれを考えてみたい。