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目指せ急成長

「社員教育は大切です」という会社は多いが、その動機はマチマチのようだ。

私が20才代を捧げた愛知県本社の小売チェーンでは、明確な急成長戦略をとっていた。
チェーンストア経営理論をもとにして、「スポーツ用品小売の分野で株式公開企業になる。10年で20倍、(年率35%成長)を成し遂げる」という基本方針を掲げた。

そして、急成長を可能にするのは「顧客第一主義」の理念実践と、

1.急速出店を可能にする店舗開発部づくり
2.資金調達(金融機関との密な連携)
3.高収益体質(ローコスト経営)
4.高度なコンピュータシステム
5.優秀な人材確保とその高度育成

の5大テーマ実践にあるとした。

右も左も分からない未熟な26才の私だったが、なんと5番目を担当することになった。
それは、社長直属の教育担当職を命じられたのだ。

初仕事は、研修受講だった。
社長に、「教育担当職として必要な思想と技術を学んできてほしい」と言われ、青山のセミナー会場に向かった。

セミナーの講師が語った第一声は忘れられない。

・・・教育担当者の最大の任務、それは社員を教育することではない。
教育制度を作ることでもない。それらはいずれも手段である。最大の任務はクビキリである。多くの社員の肩をたたくのだ・・・

我が耳を疑った。私が首切り屋になれって?そんなのできるワケがない。だが、よくよく聞いてみると、こういうことらしい。

我社の価値観や理想、きびしい要求水準に合わせられない人、合わせようとしない人は、自ら、いたたまれなくなって去っていく、そんな風土を醸成するのが教育担当職の最大の任務である。

私は合点がいった。店長やバイヤー、管理者として資質が問われるような先輩が何人もいた。
この講座に私を派遣した社長自身が、父親の会社を継いで日が浅く、今の人材構成に疑問を感じていたはずだ。

「よし、社長の主旨はわかった。ブレーキがかけられるまで暴れてやろう」と思い、会社にもどって荒療治しようと決意した。

帰社後、セミナーレポートを提出した。それに予算請求書を添付した。すでに「研修教育費」という勘定科目が存在したが、教育費の年間予算は乏しかった。

教育費はどれくらいの金額が妥当なのか、いろいろと調べ回った結果、20万円という金額を独自に弾き出した。
社員一人あたり20万円の教育費を予算計上する。そうすれば、高速出店を支えるための人材育成が可能になるはずだ。

ちなみに、日本全国平均は1万円に満たない。製造業のラインで働く社員も統計に入っているせいか、数千円程度の年間教育費用である。

研修教育費用に含まれるものは、研修費用だけではない。それに伴う交通費や宿泊代、教育担当者の人件費も含まれるので20万円くらいは確保しないといけないだろうと思った。

当時、社員数は200人くらいだったので、4000万円を超える金額を社長に予算要求書として提出した。もちろん、それだけの予算を使い切るつもりなので、資金使途計画も含めて提出した。
社長からあっさりとOKが出た。

勇躍、わたしは自分の年間人件費(400万円弱)を差し引いた金額を使い切るための「年間教育体系図」作りに着手した。

たてよこのマトリクスを作り、縦には上から給与の等級を入れた。
役員クラスが6等級だったので、「6等級」から順に新人の「1等級」まで書いた。次に横には、「店舗運営部」「商品部」「スポーツクラブ」「管理部」「他」と部門名称を書いた。

そのクロスするところに必要な研修ニーズや研修メニューを書き込んでいった。
たとえば、1等級の新人は、どの部署に配属されるかは関係なく受講する研修は一緒なので『新入社員基礎教育講座(社内講座)』という具合に書く。

3等級の店舗運営部の欄には、『販売士3級』『○○セミナー』『××本』という具合に資格やセミナーや書籍、通信講座などの名称を書いていく。

このようにして完成させた「年間教育体系図」は毎年書き換えるが、定番メニューは変わらない。
もちろん、研修教育だけが教育ではない。OJTも大切なので、それをサポートするためのツールも現場に供給する。例えば、新人指導用の「OJTチェックリスト」や「商品知識ハンドブック」などのツールも整備していき、毎日社員が成長するようにサポートする。

このようにして、予算決め、計画決め、担当者を決め、実行していくことによって教育は俄然、進み出す。日に日に進歩する。

これは、急成長戦略を支える人材育成の話だ。
年商3~5億円のお店を運営し、パートアルバイト含めて20~50名のスタッフを管理する店長を入社5年生(27才)にやらせよという作戦なので、これだけの研修をしなければならなかった。

それほどまでの成長を見込まなくてもよい会社、見込もうとしない会社はもう少し落ち着いて研修を進めていけばよい。

だが、少なくとも同業他社よりは多くの研修教育予算を確保しよう。

もし他社に負けない教育予算額を問われたら、私はこう答える。

「年間教育費=100万円+(社員数×10万円)」

これは、先にも述べたように研修受講にあたっての交通費や宿泊費を含むし、教育担当専任者がいる場合はその年収も含む。

「そんなにも無理です」という社長もいれば、「え、たったそれだけで良いのですか」という社長もいる。とにかく、使いきってもらいたい。相当使えるはずだ。

もちろん、研修教育だけが成長戦略のすべてのカギを握るわけではない。
育成力以外にも、採用力、定着力、コミュニケーション力、モティベーション力などなど、いろいろある。

だが、今日ご紹介したような独自の人材育成システムを構築することは、独自の売れ筋商品を持つこと以上に価値あることだと考えても良かろう。

会社全体の成長スピードが遅いとしたら、社長と社員の成長スピードが伴っていないからだと考えてみよう。

社員教育とは、適切な人に、適切な内容を、適切に教えることだ。それぞれの「適切」を定義していくことから始めよう。