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専心力

「甲子園だけがオレたちの目的ではない」

と監督に指導された高校球児たちは、決してあの独特の雰囲気の中で試合することはできないだろう。
甲子園で試合できる球児たちとは、例外なく、甲子園を狙っていた選手たちである。他のことを犠牲にして、甲子園を夢見て練習してきた選手だけが甲子園のグランドに立つ。

狙わないと得られない。
特に、ビジネスや会社経営には、偶然の勝利とか、ラッキーな成功などあり得ない。狙いを定めよう。

「狙う」とは、目的を一点に絞るという意味でもある。複数の的を狙って撃つ人などいない。

「一意専心」(他に心を向けず、その事のみに心を用いること。「広辞苑」)という言葉があるが、能力を一点にだけ集中した人は、能力を分散させてしまった人に勝つ。

そのメカニズムはこうだ。

・能力100×専心力100%=100
・能力100×専心力70%=70
・能力200×専心力30%=60

「専心力」とは、興味関心の対象をどれだけ絞れているかという能力であり、これは人に不器用であることを要求する。
器用な生き方をすると、能力や才能を多方面にまき散らす結果になりやすい。自分を不器用に縛ることこそ立派な才能だと私は思う。

昔から「一芸に秀でる」と言葉があるが、一芸に秀でた人は多芸に通じることができる。

高名な料理人は往々にして書の達人であることが多いが、それは、毎日料理メニューを書で書いているうちに上達していくらしい。

“料理を極める”という終わりなき道を歩むことが、求道者としての学習態度や生活の姿勢を作るのだろう。
書道という他芸でも、人より早く本質に到達できるようになる。だから、一芸に秀でた人は、比較的何でも上達が早い。

「売ること以外に大切なことがある」と教えられると、営業マンは売らなくなる。
売ることが一番大切であり、一番困難なことでもある。なのに、それ以外にも大切なことがあると教えられると、それ以外のことをやり始めるのだ。

営業のリーダーは、売ることに専念させ、売ることが営業の仕事であると骨の髄まで浸透させねばならない。
そのあとから、「まず売ることが一番、その次に売ったお客さんを大切にしろ」と言われると、それも営業マンはやれるだろう。

だが、たくさんの要求を同時にしてはならない。

「売って、お客さんを喜ばして、ホウレンソウして、チームワークして、自己啓発して、遅刻は決してするな、と言われると、とたんに何もできなくなる。それが人間だ。

経営者だって同じだ。

「利益をあげること以外に大切なことがある」と考え始めると、とたんに利益を軽視しはじめる。

やれ、顧客満足だ、経営理念だ、人材育成だ、社会貢献だ、環境重視だと関心が分散し、やがて利益を無視した経営を始めることだって少なくない。それでは、何ひとつ達成できない。

甲子園球児が他事を犠牲にしたように、一点に賭ける計画を作ろう。

だからといって、利益以外はすべて無価値かというとまるで違う。
利益も顧客重視も社会貢献もなにもかも、有機的につながっているのが現実の世界だ。
だが、一点突破するためには、厚い壁を破るにふさわしいエネルギーを注入してやる必要があるのだ。

それが一意専心する力、つまり「専心力」なのだ。
「専心力」という単語は辞書にないので、調べても出てこないだろう。
「専心力」とは、興味関心の対象を一つに絞る力のこと。とことん絞ろう。

器量が大きくなれば、二つや三つのテーマも同時に専心できるだろうが、大原則は「一意専心」でありたいものだ。