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クレドーへの執念

1982年9月、シカゴで端を発した「タイレノール」毒物混入事件。
ジョンソン&ジョンソン(以下、J&J)の人気鎮痛剤「タイレノール」に毒物が盛られ、7人が死亡する事件が起きたのだ。

この時のJ&J社の対応の早さと的確さは企業事件の際のお手本と言えるだろう。
「どうぞ、皆さん、今すぐ服用をおやめください」と全米に呼びかけ、全品回収をはかった。地方の一ドラッグストアの棚にある一品まで回収しつくしたのだ。

この騒動のさなかにおけるJ&J社の情報発信量の多さは、JFK暗殺ニュース以来といわれ、全米中にあっという間に情報が浸透した。

そうしたメディアでの告知や回収コストに一億数千億ドルを要したが、同社はお客の利益を第一に考える姿勢に迷いはなかった。そのことが、事件沈静後、同社の評価をさらにたかめることになる。

J&J社のこうした機敏な対応の背景にあったのは、経営理念だ。同社では「クレドー」とか「我が信条」という名称で経営理念を書面にして社員に配布し、徹底をはかっている。

我々の第一の責任は、すべての顧客のため
我々の第二の責任は、社員一人一人のため
我々の第三の責任は、地域社会、更には全世界の共同社会のため
我々の第四の責任は、会社の株主のため

という価値の優先順位が簡潔に表現されているのがJ&J社のクレドーなのだ。

時と場合によって価値の優先順位が変わる会社が多い中、この優先順位を愚直に守ってきている会社ってすごい。

1943年にJ&J社のクレドを作ったジェネラル・ジョンソンは、「もし、この内容に賛同できないなら、他社で働き口を見つけてくれて構わない」とまで言っており、クレドー対する彼のコミットメントの固さがうかがえよう。

経営理念やクレドーを作っている会社は日本でもドンドン増えているが、J&J社の徹底力はクレドーへのこだわり方にあらわれている。

その施策のひとつに、「クレドー・サーベイ」とよばれる年に一度の社員アンケート調査がある。
全世界12万人のJ&J社員が、クレドーの精神に則って経営されているかどうかを一斉にオンラインチェックするもので、78個の質問に対して、五段階で評価するのだ。ある意味、経営者の通信簿のようでもあり、全世界の社員の97%が回答しているというから、この調査への関心の高さがうかがわれる。

J&J社では、この調査結果をもとに前年の活動成果をふり返り、新しいアクションプランを立案するのに役立てているという。

さらにはクレドー・チャレンジ・ミーティングなる会議がある。
これは、経営者と社員が双方向で一日かけて行う年に一度の本音ミーティングで、

・あなたがクレドーに挑む
・クレドーがあなたに挑む
の二つが議題になるという。

具体的には、
・クレドーの文章は、今、あなたが業務を遂行するうえで役に立っているか?
・クレドーの内容に変更したい箇所があるか?あるなら、どこをどう修正したいか?
・あなたの組織では、どのようにクレドーの価値観を実践しているか

・あなたは日頃、クレドーに従って仕事をしているか
・クレドーに従って仕事をしているならすばらしいが、していないならどうするか?
・クレドーの価値観にあなたの仕事のやり方をあわせられるか?

を話し合うという。

その結果ついてきた実績が、73年連続増収、21年連続2桁増益、43年連続増配。それがJ&J社だ。

経営理念を軸にした会社経営をしたい、クレドーについて興味があるというあなたに、次の本をおすすめしたい。

『大切なことはすべてクレドーが教えてくれた』
(片山修 監修 PHP研究所刊)