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現金の迫力

岐阜県の食品卸し会社「D」のD社長は、社長就任早々の昨年、銀行の協力を得てある実験をした。

D社では毎月の売上高が約3,000万円、原価(仕入れ)が2,400万円、粗利益が600万円、毎月の経費が550万円、毎月の営業利益が50万円というのが平均的状況だった。

ある実験とは、昼の休憩時に13名の社員・パート全員を会議室に集め、テーブルの上に現金3,000万円を積み上げたものを見せることからはじまった。
しかもあえて真っ新なピン札ではなく、使い込まれた一万円紙幣だけできっちり3,000枚が積み上げられているので、相当なボリューム感だ。

「うわあ、何ですかこれ。山分けですか」とはしゃぐ社員がいる中、D社長は「そうや、山分けするんや」と言った。さらに、
「いや、すでに毎月山分けしとるんや。ただ、その実感をみんなに伝えたくて集まってもらった」と続けた。

「ここにある現金はなぁ、みんなが毎月使っているお金や。業者さんに支払っているうちの仕入れ分がこの中の2,400万円」とまず、その分の金額を横へずらした。

次に、残った600万円のうち、毎月支出している550万円を横へずらした。「これはうちが毎月使ってる経費550万や」

そして、ぽつんと残った50万円を手にとってD社長は、「これが毎月の会社の利益や。いや、正確に言うとこの半分は税金や。だから25万円だけ、これだけがうちの会社の儲けや」

人差し指と親指の二本だけで軽くつまめる厚みになってしまった。

「でもなみんな、この25万円も銀行さんの借金返済にすべてが回っていくので、会社としては一円も残らないのが現状や。お恥ずかしい話だが、うちは、ひ弱い体の会社でしかないというのが現実だ。だが、これからはきっちりと蓄えて、頑丈な体の会社にしていきたい。それが僕の希望であり、会社としての方針や」

「ここでちょっと考えてみようや。このテーブルの上に乗っかってる3千万をもっと上手に使うことが出来たら、もっと会社の利益が残ると思わへんか。そしたら、もっとみんなへの分け前も増えるとおもわへんか?」
「思う」
「思う」
と社員たち。社員の感覚としては、この中のたった一枚でも自分のものとして分け前が増えればうれしいのが本音だろう。

「じゃ今からちょっと作戦会議や」と、社員一人一人に紙を一枚渡した。毎月の損益計算書をカラーで見やすくした表だ。

それを見ながらD社長は、「まず一番大きな山である”仕入れ代金2,400万円の支払い”、これはどうしたらええ?」と水を向ける。
「まけてもらいましょう」「いや、一方的にまけろと言っても通らないだろ」など、ひとしきり議論がある。

「次にこの経費550万円の使いみちやけど、現状は、そのうち約400万円が人件費や。つまりみんなの給料や社会保険、それに賞与に回るお金を足すと、ざっと400万円になる。あと、家賃がこれだけ、交通費がこれくらいっと、光熱費がこれだけかかってるし、通信費がおおむねこれだけ・・・」という具合に現金を動かして説明していくので迫力充分だ。
これだけの大金を見るのは初めてという社員ばかりで、中には、ゴクッとつばを飲み込んで話を聞く社員もいた。

最後にD社長はこう締めた。

「今日は銀行さんのご協力を得て、会社の動きを現金でみんなに見てもらうことができた。毎月こんなことが出来るわけやない。これからは毎月一回、みんなに紙で配って経営報告会をやる。その時に、みんなの意見や知恵を聞かせてもらいたいと思っているのでよろしく」

このミーティング直後、D社長は銀行マンとある打ち合わせを行った。それは銀行口座の管理方法についてなのだが、それは明日に続く予定。