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カバンとあいさつ

挨拶がまともにできないようなビジネスマンは少ないが、相手の気持ちがまるで理解できていない人は結構いる。
全国を回りながら、何となく「この場所にはもう来たくないなぁ」と思ってしまう地区がある。それは、土地柄の問題ではなく主催者の問題だ。

長旅を終えて目的地の駅に到着し、改札口を出る。今日の講演会の事務局の方がお出迎えしてくれている。
この地で二泊する予定なので、通常のビジネスバッグの他にキャスター付のバッグも引っ張っている。講演会で使うための資料や本がビッシリ入っていて、ずしりと重い。

特に最近はキャスター付バッグの利用が増えた。中味も重くなりがちなあのカバンで階段を上下するのはとても負担が大きいものだ。

そんなとき、スマートに「カバンをひとつお持ちします」と手を差し出されるとホッとする。
「あ、そうですか。申し訳ないですね」と言いながらも、「この人、気が利く人だな」と感心し、気持ちの中でその人のブランドイメージがアップする。

その逆にこちらは荷物が二つもあり、相手の方は手ぶらなのにその構図に気づきもしない人がいる。
そんな主催者が開催する講演会は不思議と集客も悪いものだ。相手が見えていないからだろう。

そしてそれが複数回重なると、次回からのオファーには応じたくなくなる。

倫理研究所の創設者・丸山敏雄にまつわるこんなエピソードがある。ある会の総会が終わり、会友たちが電車で帰宅する。駅につくたびに会友の誰かが降りるのを丸山はいちいち席を立ってドアまで見送る。そして「今日は、大変ご苦労でしたね。本当にご苦労さまでした。ゆっくりお休みになってください」と声をかける。

ドアが閉まり、電車が発車しても戸口に立って降りた人の姿が見えなくなるまで手を振って見送る。そうした丸山の姿勢をみて、他の会友が、<なぜ、あのようなことができるのだろう。ふだん、どのようにしていれば、あのような態度ができるのか>と考え込むそうだ。

だが、挨拶に理屈や理論はいらない。実践あるのみだ。丸山の姿を見習った九州のYは、丸山流の挨拶をまねた。挨拶はごく当たり前の生活態度なのだが、それがどのようにできるかによって、立派にもなったり、失望にもなったりする単純なリトマス試験紙である。

心に思っていることを素直に言葉や態度で表すこと。そのことに対して恥じらいや遠慮、躊躇などはまったくいらないのである。
知っていることを直ちに断行し、それを一貫することである。